©2021「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
『100日間生きたワニ』上田慎一郎監督&ふくだみゆき監督がアニメに持ち込んだ「異例」と「異物」【Director’s Interview Vol.126】
漫画「100日後に死ぬワニ」が、映画化される――。そのニュースを聞いたときに、「順当だな」と思った方は多いのではないだろうか。きくちゆうき氏のTwitterから生まれ、社会現象となったヒットコンテンツを、メディアミックスさせない手はない。ただ、である。「誰が?」の部分を知ったとき、驚いた方は少なくないはずだ。『カメラを止めるな!』(18)で大旋風を巻き起こした上田慎一郎監督が、妻でアニメーション監督のふくだみゆき監督と共同で監督を務めあげる。ならばこそ、きっと何か仕掛けてくるに違いない――。
その予感は、最高の形で的中する。神木隆之介、中村倫也、木村昴、新木優子、山田裕貴といった豪華な面々もそうだが、中身を観ればびっくりするだろう。『100日間生きたワニ』(7月9日公開)は、原作の“その後”を全体の約半分の時間をかけて、丹念に描いているのだ。そしてそこには、コロナ禍の“いま”を感じさせるエッセンスがちりばめられている。さらに、一般的なアニメとは違って「沈黙」や「間(ま)」が意識的に盛り込まれ、「生活感」あるいは「生きている実感」を強く意識させるのだ。
構成・物語・演出・演技――メジャー配給の娯楽作ながら、昨今のアニメの文脈とは大きく異なる野心作を放った上田監督・ふくだ監督の“想い”とは。単独インタビューで、じっくりと聞いた。
Index
- 当初は実写映画化をイメージしていた
- 周囲に心配されながらも、こだわって入れた「間」
- 自分たちが観たいものは、原作の“その先”だった
- 「観客を信じる」作り方を選択した
- オリジナルキャラを任された山田裕貴と、中村倫也の絆
- 大御所アニメーターとの仕事、コロナ禍での制作の難しさ
- 最後の一手は、観客に。「完成させてはいけない」想い
当初は実写映画化をイメージしていた
Q:もともとは、実写映画化を企画していたそうですね。
上田:そうですね。連載開始時から読んでいて、連載30日目くらいのタイミングで企画書を作って東宝に提出しました。実写と言っても、ワニの被り物をするとかCGとかではなく、人間に置き換えて何気ない日常を描く物語として想定していましたね。その後、東宝から「上田さんとふくださんの共同監督で、アニメ映画化しませんか」と提案いただき、この企画がスタートしました。
Q:上田監督のこれまでの作品歴からすると、「東宝配給作品」というのはちょっと驚きでもありました。
上田:あぁ、でも企画書を持って東宝の門をたたいたわけではなくて、「何か一緒にやろう」と東宝の担当者の方と何回か会っていた時期があったんですよ。その中で、企画のひとつとして出したのがこれだったんです。
『100日間生きたワニ』©2021「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会
Q:ご夫婦で共同監督をすることになって、ふくだ監督はいかがでしたか?
ふくだ:普通にびっくりしましたね(笑)。私自身商業映画をやったことがありませんでしたし、制作会社に入ってアニメを作っていたわけでもない。原作モノもやったことがないので、本当に“やったことない尽くし”でした。ただ、だからこそ挑戦したい気持ちはありましたね。
もし仮に「一人でやって」と言われたら心配でしたが、「二人で」というお話だったので、話し合いながらできるなと思えたのも大きいです。
Q:このタイミングで「アニメ」に帰ってくるのも、運命的なものを感じますね。
ふくだ:自分で手を動かさないで上がってくるアニメというのが、初めてだったんです。そこが最初は不思議な感じで、フィードバックを言葉で伝えるのがすごく難しかったですね。
Q:アニメーターというよりも、監督としての動きというか……。
ふくだ:そうですね。後半は自分で手を動かすことが増えていったのですが、最初のほうはどう動いたらいいのか戸惑いました。