教育番組で培った、演出術
Q:黒崎監督にとって、原点的な作品にはどのようなものがありますか?
黒崎:黒木和雄監督の作品や原田芳雄さんが大好きで、『祭りの準備』(75)に憧れたり、『ミツバチのささやき』(73)を撮ったビクトル・エリセ監督の『マルメロの陽光』(92)というドキュメンタリー映画に影響を受けています。フィクションと現実が融合したようなドキュメンタリータッチの映画になっていて、すごく刺激を受けました。
僕自身も、テレビ番組を作り始めたころは、色々な仕事をやりました。ある家族を追った30分のドキュメンタリーも作って、それは自分の大きな財産になっているのですが、やればやるほどフィクションかドキュメンタリーかの区分けをすることがナンセンスに思えてくるんです。ドキュメンタリーほどフィクショナルなものはないという気もするし、ドラマもその瞬間を切り取っているという意味では、とてもドキュメンタリー的な要素を持っていますよね。
自分もそういったスタイルを貫いていければと思っていて、境界を作らないような物語にしたい思いは強いです。
『映画 太陽の子』©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
Q:先ほど「自分の色がわからない」とおっしゃっていましたが、それが黒崎監督のカラーなのではないでしょうか。『太陽の子』もまさにそうした映画ですし。
黒崎:確かに。そうなればいいなと思っていますね。
Q:黒崎監督の演出術は、そうした現場での経験によって培われていったものなのでしょうか。
黒崎:仕事の中で色々な方と出会ったことが、つながっている気がします。例えば僕は教育番組の『さわやか3組』を2年ぐらいやっていたのですが、すごく面白いんですよ。子どもたちはお芝居はできないから、「どういう風に演出したらいいんだろう? どうやって付き合ったらいいんだろう」とすごく勉強させてもらいました。
そのときに出会ったカメラマンは超ベテランの方で、ゼロから教えていただきましたね。予算もそんなにないから、カメラを移動させるレールなんて使えなくて、いつも車いすにカメラマンを乗せて僕が押して撮るんです。初めてレールを使えたときは、「夢のようだ……」と思いました(笑)。