1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】
『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

PAGES


ヒーローも人間。たくさん間違えて失敗してほしい



Q:黒崎監督のこれまでの作品は、歴史や社会と結びついたものも多いですよね。いまの日本をどう捉えているのか、非常に気になります。


黒崎:そうですね……(考え込む)。『太陽の子』に関していうと、元々その時代を描きたかったわけではなく、たまたま手にした題材が70年前だった、ということなんです。そこを入り口にしつつも、現代につながっていると感じたところが大きかったんですよね。つまり人間と科学や学問や戦争といったテーマはいまなお続いていますし、きっとこれからもそう。


修(柳楽優弥)もそうですが、その当時の最先端の学問を研究していく先に、自分がどこに行きつくのかは、誰もわからずにやっているわけです。そう考えると、これは全然昔ばなしじゃなくて、いまの日本や世界につながるものだと強く感じられる。


僕は彼らが研究していた科学的なことは全然わからないけど、何かしらの希望を抱いて取り組んでいたことは間違いないと思うんです。殺りく兵器につながるというより、誰も見たことがないから面白い、見てみたいという欲求を止められなかった。だからこそ若い情熱を燃焼させたんだ――という姿が自分の目の前に立ち上がってきたときに、他人事ではない等身大の若者たちが見えてきて、だったら書きたいと思えたんです。


「科学と人間」ということでいうと、コロナ禍がまさにそうじゃないですか。自然科学を人間はコントロールしきれないということを、いままざまざと僕たちは見せつけられているし、それでもギリギリのところで対処していくしかない。ただ結局のところ、最後は希望を持っていないと生きていけないし、人間は必ず希望を探して生きている生き物だと思います。だから、“人生”を観ていたいと感じるんでしょうね。



『映画 太陽の子』©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ


Q:『太陽の子』を拝見したときに素晴らしいなと感じたのは、登場人物の“考え”が変容していく部分です。修がまさにそうですが、知的好奇心や科学者の性(さが)というひとつの思想・狂気に染まりそうになったときに、周囲の人間との衝突が発生し、研磨されていく。これは意識的に入れたものなのでしょうか。


黒崎:「この人物はこういう役割だ」と最初から決めて物語を書いていくと、ひどくステレオタイプなものになってしまう。そうはしたくないと思っていました。その時々で社会の状況は変わっていくわけだし、考えが移ろうのが人間だから。


「ヒーローだから間違ったことをしちゃダメ」じゃなくて、たくさん間違えてほしいし失敗してほしいといつも思っています。いまの感覚で観たら正しいこともあれば、間違ったことも言う。國村隼さんが演じた荒勝教授もそうだと思います。いまの感覚からすると「そんなわけないでしょ」と思うかもしれないけど、あの瞬間彼が本気で未来を語って、「科学者なら未来を信じていなきゃだめだ」とユートピア思想のようなことを言う。


本当は原子爆弾なんて当時の日本には作れないと思っているけど、学生を守れるなら嘘をつき通す、と腹を括っている部分もあるでしょうし、それぞれの人物が多面性を持っていると思います。難しい状況の中で、その瞬間を精いっぱい考えながら生きている。そのすれすれの緊張感を出せればなと思っていました。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】