ゴールを設定しない決断が、役者の生の芝居を引き出した
Q:いまお話しいただいたような人物造形があるからこそ、生身の人間が立ち上がってくるのでしょうね。となると気になるのは、どうやって役者さんから“生きている感じ”を引き出していくかです。
黒崎:例えば研究室のシーンでいうと、柳楽くんをはじめ三浦誠己さん、宇野祥平さん、尾上寛之さん、渡辺大知さん、葉山奨之さん、奥野瑛太さんというすごくいい俳優が集まってくれて、彼らが「よーい、ドン」で芝居をぶつけ合ったときにどういう化学変化が起きるかは、やってみないとわからない。だから「ここにたどり着くために芝居しよう」と言うのをやめました。
皆さん、それぞれの役を十二分に把握してくれて、自ら広島にまで足を運んできてくれたり、すごく準備をしてくれていたんです。そのうえで彼らが集まって芝居を始めた瞬間、思わぬ方向に流れていくんですよね。険悪になったり一致団結したり……それが、芝居のセッションだと思うんです。ゴールを決めてやるのではなく、その瞬間を生きていく。非常にスリリングでしたね。
『映画 太陽の子』©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
Q:確かに、作品を拝見すると、誰か一人にフォーカスするのではなく俯瞰で見つめるシーンも多い。それぞれが「生きている」からこそ、成しえたのだなと思いました。そうしたアプローチをとるにあたって、動線やカメラワークなども即興的に決めていったのですか?
黒崎:一応、コンテは切りました。あらかじめ「カメラは大体こういう風に動くよ」とは伝えつつ、俳優さんに「こういう風に動いてください」はあまり言わなかったですね。ただ、結果的には意図したとおりになっていく。それも、こちらが進めていくと俳優部の方が「こう考えているのかな」と感じ取ってくれたことが大きいと思います。お互いに少しずつ見せ合って、すり合わせていくような感じですね。
あとは、僕が思い付きで無茶ぶりをすることも多いんですよ(笑)。例えば、修がガラスに計算式を書いていくシーンがあって、みんなが「そんなこともわからないのか? 俺が書いてやるよ」とどんどん式を加えていくじゃないですか。あそこは、みんなの様子を見ているうちに僕が思いついてしまって。
それを俳優部に話したら、みんな「面白い」と乗ってくれつつ、数式を覚えないといけないから「マジですか」みたいにもなって……(笑)。その場でみんなが暗記してくれて撮ったのですが、そうした現場でのセッションは楽しかったですね。