1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】
『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

PAGES


カラリストとこだわった、「生きている」肌の色



Q:引きで撮ることができるのは、美術の功績も大きいのではないかと思いました。広く、かつ細部まで作り込まれているからこそ、演技の可動域が大きく、芝居の自由度も高まるのかなと。


黒崎:プロダクションデザイナーの小川富美夫さんに「この作品をやりたいと思っています。できるかはわかりませんが、実現したらぜひお願いします」とお伝えしたのは、7・8年前だと思います。


一緒にロケハンをして回りましたし、もっと言うとシナハン(シナリオハンティング。脚本を作るための取材)から一緒でした。実験室でいうと、奥行きまで考えてくれましたし、実験装置として加速器を作ってくれました。あんなものが戦時中の日本の大学にあるなんて信じられないなと思っていたけど、演出部の綿密なリサーチと装飾部がすごく頑張って再現してくれたことで、説得力が生まれた。彼らの技術力に助けられましたね。


最初、小川さんに話したのは「シビアなテーマを持った物語だけに、美しい映画じゃないとダメだと思っている」ということ。青春の瞬間をいかに精いっぱい生きているかという話だからこそ、そこに美しさが伴わなければならない。そうすると、セットを作るときに重要になってくるのは「光」です。


光をどうやって取り込めるかということをとにかく考えて、実験室でも“引き”で撮った際に光がどこまで差し込んでいるかを重要視していました。戦時中なんだけど、ここでは科学のことだけを考えていられるユートピア感というか、そういった場にしたかったんです。小川さんが僕の話を受けて、非常に計算して作ってくれました。



『映画 太陽の子』©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ


Q:光の取り込みに通じるかもしれませんが、全体的な肌の色の作り方が印象的でした。火を前にしているような色合いだと感じたのですが、広島に行った際に顔の色合いが一気に白くなる。メタファー的な意味合いも含め、鮮烈に記憶に残っています。


黒崎:めちゃくちゃマニアックな質問をしていただき、すごく嬉しいです。色を作ったのは、ロサンゼルスでした。カラリストのアロン・ピークさんはカリフォルニアの人で、最初は空の色も海の色もザ・カリフォルニアだったんですよ(笑)。いまとなっては笑い話ですが、最初観たときは椅子から転げ落ちそうになりました(笑)。


ただ、やり取りをしていくうちにすぐに「この映画をどういう風に持っていくか」をわかってくれて、大好きな色を作ってくれました。そのやり取りの中で最初に話したのが、まさに今おっしゃっていただいた“肌の色”なんです。戦時中の物語だから着物だってそんなに派手じゃないし、暗い画を作ることだってできる。そういう考え方もなくはないと思うのですが、最初に話し合って一致したのが、彼らを生き生きと描くということ。


そのためには、肌の色も生きている感じ、血が通っている感じが伝わらないとダメだし、京都の町がいまも美しいように、そのときだって美しい光が差していたはず。従来の戦争ものみたいなイメージを一つひとつ外して、生命力を入れていきました。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】