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『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

『映画 太陽の子』黒崎博監督 虚構の世界で、「命の躍動」を追求する【Director’s Interview Vol.130】

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「撮らない」姿勢を見せることが、現場の意識統一につながる



Q:「生きている」ところでいうと、比叡山に登った修がおにぎりを食べるワンカットのシーンは凄まじいですね。おにぎりを食べながら涙がこぼれてくる過程をリアルタイムでとらえていて、感情を持っていかれました。


黒崎:非常に冒険のカットでしたね。スクリーンで観て下さるお客さんに伝わるかな、伝わってほしいなと念じながら作ったシーンです。柳楽くんも当然ながら、このシーンがどれだけ大事かを十二分にわかって演じてくれました。


比叡山の上に何時間もかけて登って、最後にあのカットを撮ったのですが、それ以上撮ろうとしなかったし、柳楽くんの芝居を観ても2テイク目を撮るとはだれも思わなかった。それぐらい、あの瞬間にかけて何が出るか、映画の運命を信じてやってみたカットでしたね。


Q:山と海、ふたつのシーンで柳楽さんを追いかけるカメラが激しく揺れますよね。あれも非常に印象に残りました。


黒崎:ある種のドキュメンタリーの感覚で撮っているという想いが日に日に強くなったこともあって、生まれたシーンですね。先ほど、「若い時は車いすにカメラマンを乗せて撮っていた」と話しましたが、レールを使えるようになったり贅沢な環境で撮らせてもらえるようになって、失われたものってあると思うんです。


静かに魅せるべきシーンはありつつ、修が山を登っていくところは整理するよりも、俳優がその瞬間に何かをぶつけているそのさまを、とにかく追いかけることが大事だという気持ちがあって。カメラマンの相馬和典くんは“手持ちの名手”だと僕は思っていて、だからこそああいった撮り方を選びました。画がブレるとか失敗するかもとか不安はありつつも、「とにかく修の背中を追いかけていこう」という想いで撮影しましたね。



『映画 太陽の子』©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ


Q:お話に上がったシーンも含め、様々な部分に「観客の想像力を信じる」を感じました。その辺りのお考えを、お聞かせください。


黒崎:テレビを作るときと映画を作るときで違うのかもしれませんが、僕はいずれにせよそこを信じていないと映像作品は作れないと思っています。最後は観る方にゆだねて、感じ取ってもらうために作っているので。


映像というものは、発想を組み上げていくときには付け足していくのですが、それを最後にいかに削っていけるかが、監督としての力量が問われるところだと思うんです。だからこそ、緊張感をもって「本当にこの説明はいるのか?」ということをセリフひとつにしろ考え抜きますし、「編集で落とせばいいや」じゃなく、現場で「撮らない」という選択をすることで、スタッフも俳優部も、チーム全体に意志が伝わる。


とにかく削って、後は感じてもらえるかどうか。ただそれは、お客さんを信じていないと難しい。まだまだ正解はわかりませんが、そういった風に作品を作っていきたいです。



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監督・脚本:黒崎博

1969年生まれ、岡山県出身。92年にNHKに入局。2010年、ドラマ「火の魚」の演出により平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞放送部門、第36回放送文化基金賞演出賞、および東京ドラマアウォード2010演出賞を受賞。主な映画作品は『冬の日』(11)、『セカンドバージン』。『神の火』(Prometheus' Fire)でサンダンス・インスティテュート/NHK賞2015にてスペシャル・メンション賞(特別賞)を受賞。「太陽の子」(GIFT OF FIRE)と改題し、2020年にパイロット版とも言うべきテレビドラマが放映される。主な作品にNHK連続テレビ小説「ひよっこ」、「帽子」(08)、「火の魚」(09)、「チェイス〜国税査察官〜」(10)、「メイドインジャパン」(13)、「警察庁長官狙撃事件」(18)、現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)などがある。



取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



『映画 太陽の子』8/6(金)ロードショー

配給:イオンエンターテイメント

©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

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