文化芸術は、生身の人間にしかできない“仕事”
Q:しかし、撮影1カ月前にしてコロナ禍により保育園の撮影が難しくなり、企画が頓挫。その約2週間後に、河村さんが森ガキ監督に本作を提案したそうですね。この2週間、河村さんはどんなことを考えていたのか、非常に気になります。
河村:一言でいうと、コロナのことです。「コロナって、何だ?」ということ――それはいまもですが、そのことを考え続けていました。「移動して集まって対話する・接点を持つ」というのは、家族も社会も娯楽も含めた、人間の社会構造ですよね。それが世界的にシャットアウトされてしまった。
しかしながら、カネは自由に行きかっている。仕事という面では、肉体労働や頭脳労働はある程度機械でまかなえる。そうした新しい社会の中で、生身の人間にしかできない仕事とは何だろう? 「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる職種の人々、そして我々映画業界も含めた文化芸術もそうですよね。生身の人間にしかできない。
そのころ感銘を受けた言葉で「文化芸術は不要不急ではなく、人間の大事な創造性と多様性を育む不可欠なものだ」というものがありましたが、改めてそのことを考えました。頭脳労働や肉体労働はある程度、機械ができる。しかし我々の仕事は、人にしかできない。
『人と仕事』©2021『人と仕事』製作委員会
Q:ある種、映画制作者としてのアイデンティティの再構築といいますか……。
河村:ただ、その中でも分断が生まれていることも感じていました。劇場公開ができないなか、配信が台頭して論争が起きましたよね。コロナ禍によっていろいろな差別や不寛容が発生しましたが、劇場と配信が対立する事態もまた起こってしまった。
そんななかで、有村架純さんと志尊淳くんとの出会いがありました。森ガキ監督と私の出会いもそうだし、ここで生まれた絆をコロナで壊してしまうのではなく、新しい企画にしていきたいという想いがわいてきたんです。『人と仕事』のアイデアは、そうして生まれていきました。
Q:映画作りが使命であり、分断の浸食を止めることにもつながるわけですね。だからこそ、ここで立ち止まってはいけない。
河村:そうですね。森ガキ監督はドキュメンタリー経験がほとんどなく、有村さんも志尊くんも劇映画が多く、ドキュメンタリーはほぼ初めて。でも僕は、そこが面白いと思いました。
きっとそれぞれ、映画という自分の“仕事”、或いは芸能活動について一番考えている時期でしょうし、それを自然に出していける企画にしたいと考えましたね。