コロナ禍で制作が中止――。映画業界に身を置いていれば、何度も耳にしたこの言葉。全世界規模で未曽有の危機に瀕したいま、ものづくりもいままでのようには立ち行かない。だが、この男は違った。映画会社スターサンズ代表・河村光庸。彼は、森ガキ侑大監督・有村架純・志尊淳と作るはずだった劇映画が頓挫したとき、こう提案したのだ。「みんなで、ドキュメンタリー映画を作ろう」と。
そうして生まれたのが、10月8日に劇場公開を迎える『人と仕事』。タイトル通り、コロナ禍において働き方が大きく変化した昨今、「人」と「仕事」について改めて考える内容となっている。森ガキ監督、有村、志尊が保育士や農家、ホストクラブの経営者やシングルマザー、ホームレスといった様々な職業・立場の人々に取材し、各々が直面する“現状”を見つめるのが《前半》、その体験を経て、有村と志尊が俳優という自らの“仕事”と向き合うのが《後半》。同じ時代を生きる人々が、いま何を想い、生きているのか――。私たちの視野を広げる、渾身の一作だ。
本稿では、公式プロダクションノートの聞き手・構成を務めたSYOによる、森ガキ監督と河村プロデューサーの対談インタビューをお届け。ふたりの映画への想いを、深掘りしていく。
Index
- 始まりは、保育士を通して社会を考える企画だった
- 文化芸術は、生身の人間にしかできない“仕事”
- コロナ禍を逆手に取った、少人数のドキュメンタリー制作
- 「ないものを作ろうとする」プロデューサーがいない
- 「いける」と確信を得た、有村×志尊の対話シーン
- 河村Pの手腕が発揮されたスピード公開
始まりは、保育士を通して社会を考える企画だった
Q:森ガキ監督と河村さんの出会いは、どのようなものだったのでしょうか。
森ガキ:河村さんとずっとお仕事をしたいなと思っていたら、とある仕事関係の人が紹介してくださったんです。よく藤井道人監督と出会う店があるのですが、そこで河村さんと飲みましたね。一緒にビールを飲んで、ウインナーをいっぱい食べました(笑)。
河村:(笑)。
森ガキ:そのときに「『保育士』を題材にした企画をやりたいんだけど、どう思う?」と聞かれて、僕も河村さんとずっとやりたかったから「こんな機会があるんだ!」とすぐお受けした形です。
『人と仕事』©2021『人と仕事』製作委員会
河村:『人と仕事』にも通じますが、コロナ禍に入る前に、保育士という“仕事”に対して問題意識がありました。ジェンダー的な観点から見ても、人間は歴史的にずっと「主」が男性で「従」が女性という感覚を踏襲してきましたよね。保育士というなくてはならない仕事にも、どこか女性を「従」とする感覚が付きまとっている。映画で「保育士」を描くことで、ジェンダー問題とそれを生んだ社会、さらには仕事について追及できるのではないかと考えたんです。企画はそういったところからスタートしました。
ものすごく興味があり、ぜひとも実現したいと考えていたのですが、なかなか良い監督がいない。そんなときに森ガキ監督の『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)を観て、森ガキ監督ならできるんじゃないかと思い、お声がけしました。僕は新人監督が大好きだから(笑)。
森ガキ:いま河村さんがおっしゃって下さった通り、ジェンダー問題といいますか、女性がもっと活躍できる社会になっていかなければならないという想いは、僕もあります。河村さんが掲げたテーマや企画自体には、とても興味を惹かれましたね。