コロナ禍を逆手に取った、少人数のドキュメンタリー制作
Q:『人と仕事』を拝見して、自分の中で新たな価値観を多数得られました。大きいのは、「分断」に対する感覚です。劇中の発言でもありますが、「家族にしろ、社会にしろ、分断の中でうまく回っていた部分もある」というのは、非常に印象に残りました。つまり、「分断=良くない」一辺倒ではない。
森ガキ:おっしゃる通り、コロナ禍で浮き彫りになっただけで、その前から分断されていたんですよね。所得の格差もありますし、そもそも資本主義自体が分断を生みやすい構造。それである程度社会が成立していたけど、今回のコロナでみんなの目に付くようになったということなんでしょうね。そういった感覚は、僕自身もリアルに感じます。
『人と仕事』©2021『人と仕事』製作委員会
Q:そうした「気づき」を与えられるのも映画ですし、こういった部分からも先ほど河村さんがおっしゃっていた「映画=必要不可欠」を感じます。
河村:コロナは、平等に人にリスクを与えていますよね。その中で、どう生き抜くのか。組織に頼るのではなく個人で判断する機会が増えた中で大切になってくるのは、創造性と多様性。それを育んだり、深められるものが文化芸術であり、映画だと僕も思います。
ただ、皮肉なのは生身の人間にしかできない仕事ほど、できなくなっていることです。シナリオのある劇映画だと、移動して集まって、一定期間の時間をかけて作っていく。当然関わる人間も増えるから、ハードルが高くなってしまう。そこでシナリオがなく、少人数でまかなえるドキュメンタリーならば作れるのでは、という発想もありました。