「ないものを作ろうとする」プロデューサーがいない
Q:ドキュメンタリー映画に対する視聴ハードルは年々下がってきているように感じますが、いかがでしょう? 例えば『アース』(07)などのネイチャードキュメンタリー、『二郎は鮨の夢を見る』(11)などのフードドキュメンタリー、或いはNetflixの台頭もあって、一般の観客の方々もドキュメンタリーを身近に感じるようになってきたのではないでしょうか。
森ガキ:僕自身もNetflixのドキュメンタリーなどを観る機会が増えて距離が近づいてきているなとは感じますが、今回の作品を撮ったことで視点が変わっちゃいました(笑)。作り手側の感覚で「これ大変だろう」と思うようになってしまったといいますか。やっぱり、ドキュメンタリー映画を作るのって、非常に骨が折れますからね……。
だからこそ、若い人にもっと劇場でドキュメンタリー映画を観てもらいたいです。
河村:劇映画は当たりやすいけど、ドキュメンタリーは興行収入が得られないというのは映画業界の中にも刷り込まれています。だから上映館を1館からスタートして、徐々に拡大していくやり方が多いんですよね。ただ僕らは『i-新聞記者ドキュメント-』(19)のときに、それを取り払いました。最初からできる範囲のフルブッキングでスタートしたんです。『人と仕事』も、同じアプローチをとっています。
『人と仕事』森ガキ侑大監督、河村光庸プロデューサー
ただ、そこで興味を持ってもらうには、やはり新鮮さが必要。そういう意味でも、ドキュメンタリー作家ではない森ガキ監督に撮ってもらうという選択をしました。無謀でしたかね……(笑)。
森ガキ:(笑)。
河村:しかしまぁ、考えてみれば『新聞記者』(19)で「政治に興味がない」「新聞は読まない」という藤井監督を起用しているから……(笑)。
Q:前例はある(笑)。
河村:そうそう(笑)。劇映画を撮ってきた森ガキ監督にも、有村さんと志尊くんにもそれぞれ無謀なことを課しました(笑)。
森ガキ:チャレンジなんですよね。河村さんは、ないものを作ろうとしている。その化学反応を仕掛けようとするプロデューサーって、いまあまりいないじゃないですか。凄いなぁと思います。
河村:劇映画はシナリオがあり、ゴールがある。そこに向かって演じていくわけですが、今回は「体験する」。それを人気俳優ふたりにお願いするって、考えてみたらすごく贅沢なことですよね。