長引く紛争で荒廃したイラク第二の都市「モスル」を舞台に、ある目的を持ったSWAT部隊とISIS(イスラム過激派組織)との激烈な戦いを描く、映画『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』。出演者は全員アラビア語を母国語とする俳優たちで、全編を通して展開されるのはアラビア語のみ。だが手掛けたのは、ハリウッドの超一流スタッフ陣だ。
製作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)のルッソ兄弟、撮影は『アバター』(09)でアカデミー撮影賞を受賞したマウロ・フィオーレ、そして監督・脚本を手掛けたのは、『キングダム/見えざる敵』(07)、『ワールド・ウォーZ』(13)、『21ブリッジ』(19)などの脚本を手掛け、本作で監督デビューを果たすマシュー・マイケル・カーナハン。『NARC ナーク』(02)、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(10)を手掛けたジョー・カーナハン監督の実弟だ。
本作で圧倒的臨場感をもって描かれる戦闘シーンは、まさに現代の戦場に放り込まれた感覚を与え、その恐怖を観る者の脳裏に刻み込む。そんな戦闘シーンが全編に渡り続くものの、決してアクション一辺倒には陥らず、強烈なドラマがしっかりと爪痕を残していく。カーナハン監督は、どのようにしてこの“モスル”を描ききったのか? 話を伺った。
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シンプルなプロットに加えた成長譚
Q:物語は唐突にはじまり、SWAT部隊に同行する行程だけを描くシンプルなプロットとなっていますが、一寸先がどうなるかわからず、画面に釘付けにさせてしまう強烈な力を持っています。また、そのシンプルなプロットの中にも雄弁なドラマが込められていました。脚本はどのように組み立てられたのでしょうか。
カーナハン:原作である「ザ・ニューヨーカー」の記事を読んだ時にすぐに思い浮かんだのは、若い警察官カーワの話がベースとなるプロットでした。とある事件現場でカーワがSWAT部隊にリクルートされてそのままチームに合流、そこから仲間たちと共にISに復讐をしてゆく物語。すごく暴力的でシンプルなプロットですが、そこにどう深みを加えていくかを課題として、脚本作りに取り掛かりました。
『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』Ⓒ2020 Picnic Global LLC. All Rights Reserved.
そこで意識したのが、カーワ自身がこの物語の中でどう成長していくかということです。それを踏まえて脚本を作っていきましたが、実はこの部分は撮影現場に委ねた部分が大きかったんです。カーワ役のアダム・ベッサとスタッフである我々が、この過酷な撮影を通してどう成長していくか、観客の反応などはあえて考えずに、そのリアルな成長を映画に盛り込んでいきました。
私自身、これまで様々な脚本を書いてきましたが、こうして振り返ると、この映画の脚本作りは初めての体験が多かったかもしれませんね。