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『ディア・エヴァン・ハンセン』スティーヴン・チョボスキー監督 ミュージカル+青春映画の新たな地平を求めて【Director’s Interview Vol.164】
映画には、取り上げる題材に最適な監督が必要とされる。それは言うまでもない常識だが、映画化のハードルが高い題材ほど、この点は重要になる。ブロードウェイの大ヒットミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」は、このケースに当てはまるのではないだろうか。もともと舞台ミュージカルを映画に移行するのは、簡単なことではない。ミュージカルでもファンタジー要素があったり、時代モノであれば世界観を作りやすいが、日常に近いドラマでは、映画の方が舞台よりもリアリティが求められるからだ。
『ディア・エヴァン・ハンセン』は、孤独な高校生エヴァンがセラピーで自分宛てに書いた手紙を発端に、同級生の自殺や、家族や友人との複雑なドラマが描かれていく、ミュージカルとしてはかなり異例の設定。基本は切ない青春ストーリーだが、そこに『ラ・ラ・ランド』(16)、『グレイテスト・ショーマン』(17)を手がけた名コンビの曲が重ねられる、エモーショナルな作品でもある。監督を任されたスティーヴン・チョボスキーは、『ウォールフラワー』(12)、『ワンダー 君は太陽』(17)でティーンエイジャーの繊細な心情、学校でのドラマを見事に描いた実績もあり、これ以上ない映画化の適役と言える。しかも彼は『RENT/レント』(05)、『美女と野獣』(17)と、ミュージカル映画の成功作で脚本に関わっている。この、青春映画+ミュージカルの名手は、どのように『ディアン・エヴァン・ハンセン』と取り組んだのか。スティーヴン・チョボスキー監督に話を聞いた。
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王道ミュージカルとは明らかに違うアプローチ
Q:この作品のオファーを受けた理由から聞かせてください。
チョボスキー:脚本がすばらしかったからです。脚本を読んで素直に感動して、何か世界のために役立つ作品ができると直感しました。今この社会では、多くの人がメンタルヘルスの問題を抱えていますし、そうでなくても孤独や落ち込み、不安は誰でも感じているでしょう。そういったテーマや登場人物たちに惹かれましたし、何より、美しい作品になると確信したのです。
『ディア・エヴァン・ハンセン』© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
Q:ミュージカルという点はどうですか? あなたの監督作『ウォールフラワー』には『ロッキー・ホラー・ショー』(75)を上演するシーンがありましたし、『美女と野獣』や『RENT/レント』では脚本を手がけています。
チョボスキー:私はスケール感のあるミュージカル、そしてダンスシーンが大好きです。ただ、この作品は王道のミュージカルとは明らかに異なる作りになると最初からわかっていました。王道のミュージカルが「Musical」と大文字で始まるとしたら、私はこの作品を「musical」と小文字で呼ぶことにします。
『ディア・エヴァン・ハンセン』には「シンシアリー・ミー」(同級生コナーとの偽りの日常を楽しく再現するナンバー)のように、ミュージカルの伝統である楽しいシーンもあり、私自身もこの曲がいちばん好きですが、基本的には、たとえばダイニングルームで会話をしていたら、そのまま歌が始まるというスタイルです。この(王道とは違う)独特な雰囲気は、撮影しながら手探りで生み出していったものです。
Q:ちなみに、過去のミュージカル映画で好きな作品は何ですか?
チョボスキー:まずボブ・フォッシー監督の『キャバレー』(72)が思い浮かびます。そして『ロッキー・ホラー・ショー』。楽しい作品なら『ヘアスプレー』(07)。もちろん『ウエスト・サイド物語』(61)や『サウンド・オブ・ミュージック』(65)といったクラシック作品、70年代なら『グリース』(78)も大好きです。さらに最近の作品なら『シカゴ』(02)、『ドリームガールズ』(06)と、キリがないですね(笑)。もちろん私が関わった『美女と野獣』と『RENT/レント』も監督の仕事を心からすばらしいと感じています。