© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020
『選ばなかったみち』サリー・ポッター監督 どうして私たちは人々とつながるのか【Director’s Interview Vol.185】
映画は世界中に響く可能性を持っている
Q:ニューヨーク、メキシコ、ギリシャと撮影のロビー・ライアンが捉えるショットが強い説得力を持ち、撮られた画はどれも素晴らしかったです。
ポッター:ロビーは、それぞれの物語に対して視覚的なアイデンティティを持たせようとしてくれます。特に色彩に関してはそれが顕著に出ています。ギリシャでは海と空を意識した青と白、メキシコは錆びついた感じ、ニューヨークでは乾燥した空気感を意識して撮ってくれました。また、彼のレンズのチョイスと手持ちの効果もあって、すごく親密な雰囲気の画が撮れたと思います。
彼は直感で画角を見つけるタイプなので、私も彼の真横に立って肩を突き合わせながら、一緒にアングルを探っていきました。このショットは誰の視点から画を捉えるのか?その辺を議論しながら撮影を進めました。
『選ばなかったみち』© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020
Q:撮影は26日間というタイトなものだったそうですが、あなたのような巨匠がそういった制約の中で映画を撮っていることに驚きました。それでもこんな豊かな映画を作っていることも更なる驚きです。映画製作は大人数で、且つ制約の下で進める芸術活動ですが、「映画製作」というものをどのように捉えていますか?
ポッター:一番時間がかかる脚本執筆は、一人で行う孤独な作業ですが、脚本完成後は制作に向けてだんだん人が集まり、撮影現場でピークを迎える。撮影期間がタイトなこともあり、その瞬間はある意味クレイジーな状態になっています(笑)。
そして撮影が終わるとグッと人が減って、エディターと二人きりで編集を進めます。ここでも脚本執筆と同じように、じっくりと時間をかけた作業が再び始まる。そうやって1人から大人数まで、関わる人数が変わっていくところが、映画づくりの醍醐味です。
また、映画づくりはいろんな要素があり、言葉を選ぶ脚本作り、色彩や構図を決める撮影、時間を操る編集、などなど、これら全ての要素を統合していく作業も大きな魅力です。そして完成した映画は、いろんな文化や言葉を超えて、世界中の人たちに響く可能性を持っている。本当に素晴らしいものだと思いますね。
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脚本家・監督・作曲家・共同編集者:サリー・ポッター
1949年生まれ。イギリス・ロンドン出身。14歳の時に初めて8ミリ映画を制作。それ以来、9つの長編映画と、『Play』(原題/1970年・未)や『Thriller』(原題/1979年・未)などの短編映画を手掛ける。テレビシリーズの脚本と監督や、オペラ作品(2007年のイングリッシュ・ナショナル・オペラの「カルメン」)、舞台作品の演出など、振付、音楽、パフォーマンスアート、実験映画という分野における多数の経歴を持つ。ヴァージニア・ウルフの古典小説を大胆に映画化した『オルランド』(1992年)で第66回アカデミー賞(美術賞・衣装デザイン賞)にノミネート、その他多数の映画賞を受賞しその名を世界に知られる監督のひとりとなる。自身も出演を果たした『タンゴ・レッスン』(1997年)は英国アカデミー賞にノミネート、その後も『耳に残るは君の歌声』(2000年)、『愛をつづる詩(うた)』(2004年)、『Rage』(原題/2009年・未)、『ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界』(2012年)、『The Party』(原題/2017年・未)などがある。彼女は、革新的な形式や、リスクを厭(いと)わないテーマで知られており、多くの著名な映画俳優たちと共に仕事をしてきた。彼女の映画作品は、40以上もの国際的な賞を受賞している。ロンドンのBFIサウスバンク、ニューヨークのMoMA、マドリードのシネマテークでは、彼女の映画や映像作品の全てを扱う回顧展が催された。2012年にOBE(大英帝国勲章)を授与された。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『選ばなかったみち』
2月25日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
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