©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会
『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』信友直子監督 偶然発見した映像によって結晶した21年間の記録【Director’s Interview Vol.196】
2018年に公開されたドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』は全国の劇場で20万人を動員、異例の大ヒットとなった。監督の信友直子は、認知症が進行する母と、その母を介護する父を娘の視点で記録し、彼女を通して体感する「VR家族ドキュメンタリー」とでも表現すべき独自の世界を構築した。その前作から4年、続編となる『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』が完成した。
本作は親の看取りや、老々介護などの問題を扱いながら、「体感映画」というスタイルはそのままに、作品としてさらに深化した演出も凝らされている。筆者はTV番組の制作者でもあるため、同じ作り手としての視点から、信友監督に制作の裏側を聞いてみた。
本作鑑賞前と鑑賞後では、このインタビューもまた味わいが違うので、是非2度読んで頂きたい。
Index
- 偶然発見したテープによって映画化を決意
- 父母を撮り始めたのは練習のためだった
- 密着取材でカメラを回すタイミング
- 目指したのはVRとして体感できる映画
- 監督が映像に写り込むどうかの判断
- 100歳を超えた父を撮り続ける
偶然発見したテープによって映画化を決意
Q:本作は、前作『ぼけますから、よろしくお願いします。』の続編となるわけですが、まず製作の経緯をお聞かせください。
信友:前作は元々フジテレビの「Mr.サンデー」という番組のプロジェクトの一環でした。プロデューサーの濱さんからは、第1弾の映画を作ってからも引き続き両親を撮り続けてほしいと言われていました。その中で、母が脳梗塞になり亡くなるという大きな変化があり、それを番組の中で特集として放送しました。すると、それを見た「ザ・ノンフィクション」の西村プロデューサーから、「1時間の番組にもできるから、『ザ・ノンフィクション』でもう一度やってほしい」と言われ、再編集して放送しました。
1時間バージョンを作ったので、「もうこれで出せる素材はないかな」と思っていたら、家の押入れから、父と母の過去の映像が出てきたんです。それが映画化の大きなきっかけでした。その映像はプロのカメラマンが撮ってくれたもので、母が買い物に行き、ご飯を作って父と食べてという日常を切り取ったものです。すごくいい映像で「あ、これは映画的だな」と思ったんです。
前作は、自分の手持ちカメラだけで撮っていたから密着感はあるけど、やっぱり映画的な感じはなかったんです。でも三脚を立てて、明かりや構図を考えた美しい映像が入ると、ノンフィクションとしてまた違ったものになると思い、映画にしようと思いました。
『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会
Q:その映像が発見されなければ映画になっていないわけで、運命に導かれた感がありますね。
信友:本当にそうだと思います。映像を発見したのは母が亡くなった直後だったので、「あんた、こんなところに、こんなテープがあるの、忘れとるじゃろ?」って母が言ってくれたように感じました。
Q:映画の中で使われているその映像は、まるで夢の中のような美しさが印象的です。
信友:私は2009年に「ザ・ノンフィクション」で『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』というドキュメンタリーを作りました。乳がんになった自分や、看病してくれる母の様子を自分で撮ったのですが、密着映像は撮れても、それ以外のものが上手く撮れない。だから南さんという信頼しているカメラマンに広島の実家まで来てもらい、風景や父と母のインタビューを撮影してもらったんです。その時にサービスとして、父と母のいつもの暮らしぶりも撮ってくれました。その後私はその映像の存在を忘れていたんですが、あの映像がなかったら、たぶん前作と同じようなテイストになってしまったと思います。