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『オールド・ボーイ 4K』パク・チャヌクと伝説の漫画原作者・狩撫麻礼の奇跡的な出会い 原作漫画編集者 平田昌幸氏 インタビュー

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『オールド・ボーイ 4K』パク・チャヌクと伝説の漫画原作者・狩撫麻礼の奇跡的な出会い 原作漫画編集者 平田昌幸氏 インタビュー

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視覚化にこだわった原作者、狩撫麻礼



Q:狩撫麻礼さんは伝説の漫画原作者です。その作品は、『ア・ホーマンス』(86 監督・主演:松田優作)、「湯けむりスナイパー」(09 演出:大根仁)、『ハード・コア』(18 監督:山下敦弘)など、いくつも映像化されています。映像化のハードルは高くないのでしょうか。


平田:割と高い方だったと思います。大根仁さんは「湯けむりスナイパー」をドラマ化する時、一度断られたそうです。それで大根さんが狩撫さんに手紙を書いて、その後直に会ったら一発で「うん、全部任せる」ってOKが出たそうです。一回信頼すると「何でもいいよ」って言う方なんです。このエピソードは、狩撫さんの追悼本に大根さんからご寄稿いただいた文章で知りました。ドラマの「湯けむりスナイパー」もだいぶ気に入っていて、仕事場に遊びにいくと、「どうだ! すごいだろ!」とビデオを何度も見せてもらいました。


Q:今回『オールド・ボーイ』を観なおして改めて感じたのは、狩撫作品は設定の巧みさも含め、映画との親和性がかなり高いということです。


平田:おっしゃるとおりで、狩撫さんはいわゆる「漫画原作」という事にこだわっていた方でした。「視覚的じゃないと駄目」ということにこだわった最後の漫画原作者だったのではないかと思います。他の多くの漫画原作は小説のような表現が多く、コマ割りを前提にしていないんです。狩撫さんはあくまでも20ページで入る内容で、漫画家さんが構成しやすいように、さらに視覚的にも描きやすいように、ということをずっと意識されていました。


Q:漫画「オールド・ボーイ」は結末を決めず、毎週即興的にストーリーを作っていったそうですが、かなりユニークな手法ですね。


平田:狩撫さんは「結末を決めずに物語を紡いでいったらどうなるか?」という実験で「オールド・ボーイ」を始めたんです。私にとっては初めての担当作品だったので、「そういうものかな」と思っていました。でもその後20数年編集者をやっていますが、普通はない手法ですね。他でも同じような手法でやったことはあるんですが、後で死ぬほど後悔する(笑)。作画の嶺岸さんが、すごく誠実に作品に取り組んでいただいたので成立しましたが、他の漫画家さんだったらキレるんじゃないかと思います。


Q:「どうすんの、これ!?」みたいな。


平田:そうそう(笑)



『オールド・ボーイ 4K』© 2003 EGG FILMS Co., Ltd. all rights reserved.


Q:後半になると、主人公の五島と恋人のエリは、実は後催眠をかけられていて、2人の出会いも全て敵が計算し尽くしていた、という驚きの展開になります。


平田:あれはびっくりしましたね。「後催眠!?」って(笑)。嶺岸さんもびっくりして「聞いてないよ…」って。


Q:予定調和感がないから、読者もワクワクしながら読めるのですが、それは漫画を描いている側もそうだったんですね。


平田:そうですね。原作をもらって「えっ!」て驚いた時が何度もありました。


Q:平田さんから、狩撫さんの原作に注文はしなかったんでしょうか。


平田:言えないんですよね、原稿もらっちゃうと(笑)。一糸乱れない確信に満ちた手書きの文字でビシっと書かれているので、「いじるな」オーラがすごい。あの原作を受け取ると、漫画家さんも「てにをは」一つ変えられないですよ。


Q:ストーリーを作る上で狩撫さんから平田さんに相談されることはなかったんですか?


平田:たまにありました。夜中の1時か2時ぐらいに電話がかかってきて、「ちょっと詰まっちゃってな。ビールでも飲みながら話そう」って。それで2時間くらい世間話をしていると、「大体固まった」っていうんです。こっちはストーリーの話とか一切していないので、「え?」ってなる。でも今なら分かるんです。ストーリーを相談したいんじゃなくて、書きたいものを喋りながら固めていたんだなと。書きたいものを抽出していく作業って割と作家さんはやるんです。ストーリーそのものより、「何を書くべきか」を探っているんです。




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