2021年は、吉田恵輔監督にとって新たな飛躍の一年だった。デビューから16年。『BLUE/ブルー』(21)『空白』(21)と2本の新作が公開されて高い評価を得、東京国際映画祭では特集企画が組まれた。
またヨコハマ映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞など主要部門を独占するなど、無名時代の中編『なま夏』(06)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭でトビー・フーパー監督に絶賛されて以来の賞ラッシュ状態。そして最新作の『神は見返りを求める』では、「ダメ人間たちが織りなすブラックコメディ」という十八番の路線で原点回帰してみせている。
マイペースに独自のキャリアを築いてきた吉田監督に、『神は見返りを求める』の裏話から『空白』が映画芸術2021年ワーストワンに選出されたまさかの歓喜まで、好き放題に語ってもらった!
※吉田監督の『よし』は土に口です。
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夢にまで出てきたプレッシャー
Q:シリアスな人間ドラマだった『空白』の次は「くだらないオナニー映画になる!」って言ってましたが、『神は見返りを求める』はちゃんと「意地悪だけど優しい安定の吉田恵輔作品」になってましたよね。
吉田:初心に戻った感はかなりあると思うんだけど、でも、自分では今までのフィルモグラフィーでどの作品に近いのかもよくわかってないんです。『犬猿』(18)をもっとふざけた感じって言うのが近いのかも知れないですけど。
Q:正反対な2人の関係性は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(13)のバリエーションでもあり、そこに長編デビュー作『机のなかみ』(06)の悪意とエモのブレンドを足したような印象はありました。
吉田:ああ、それは確かにそうかも知れないですね。
『神は見返りを求める』©2022「神は見返りを求める」製作委員会
Q:ご自身では、どんな位置づけの作品なのですか?
吉田:状況としては、『空白』をまだ撮ってないときにこっちの脚本を書いていて、『空白』の撮影が終わって編集してる時に、こっちの映画の準備が始まってたくらいだったんですけど、初めて悪夢を見ましたね。
Q:どんな夢ですか?
吉田:たぶん不安なの。現場で失敗する夢ばっかり見るんです。『空白』って、きっと評価されるだろうなというか、わかりやすい映画ではあるじゃないですか。
Q:実際、評価もされましたし。
吉田:『空白』は、そういうタイプの映画を一本作ろうと思っていた部分があって、「これで評価されなかったらいったい何で評価されればいいの?」とは思ってました。で、次はそういうのじゃなくて、またクソオナニー映画に戻ろうとしたんだけど、さんざんやってきたはずなのに、急に恐怖に駆られたんですよね(笑)。
Q:それは何に対する恐怖?
吉田:わかんない。でも一回評価を前提にした『空白』を作った結果、前は全然OKだって思ってたことも、もっとテーマ性を足さなくちゃいけないんじゃないかとか、余計なことを考え始めちゃうんですよ。頭では「別にいいじゃない?」って思うんだけど、毎晩のように見てた夢が、物撮りのシーンを撮る準備をしてるのに、全役者が衣装を着てウロウロし始めて、撮影部がクレーンとか用意し始めて、「あれ? これじゃないの? 俺だけがわかってないの?」みたいに混乱して。で「何を撮るんだっけ?」って台本を見ると、びっしりとビックリマンシールが貼ってあって「わかんないわかんない!」ってなるの(笑)。
Q:それはかなりシュールな悪夢ですね(笑)。
吉田:そういう変な夢をいまだに見る。それで『ばしゃ馬さんとビッグマウス』の時に麻生(久美子)さんが言ってたことがなんとなくわかるなと思ったんです。麻生さんは主演を何本もやってるのに、年々どんどん怖くなってるって言っていて。俺も昔は怖いもの知らずでやれてたというか、自分が面白いと思えてるならほかのことはどうでもいい、みたいな感覚は今でもあるんだけど、どんどん変なプレッシャーとか謎の恐怖心を抱くようになっちゃった。