©2022「ヘルドッグス」製作委員会
『ヘルドッグス』原田眞人監督 念願の潜入捜査バイオレンス映画はいかにして生まれたか?【Director’s Interview Vol.237】
筆者のように80年代から映画を観始めたものにとって、原田眞人は特別な監督だ。アイドル、SF、バイオレンス、時代劇と、様々なジャンルを横断しながら常に第一線に立ち続け、質の高い作品で映画ファンを惹きつけてきた。そんな原田監督の最新作は、往年のフィルム・ノワール=犯罪映画を意識した骨太なバイオレンスアクション。かつてオリジナルビデオとして発表された殺し屋映画の傑作『タフ』シリーズ(90~91)を彷彿とさせる作品だ。
70歳を超えてなおパワフルなアクション演出と外連味たっぷりの人間ドラマで観客を魅了する、原田眞人、渾身の一本である。さらに今作は、主演の岡田准一が「技闘デザイン(アクション振り付け)」を担当し全てのアクションシーンを設計しているのも見どころの一つ。ユニークな演出で描かれるヤクザ組織、日本映画の枠を超えた高度なアクション。これらはいかにして実現したのか?原田監督に語ってもらった。
『ヘルドッグス』あらすじ
復讐のみに生きてきた元警官・兼高(岡田准一)は、その獰猛さゆえに警察に目をつけられ、関東最大のヤクザ組織へ潜入させられるハメに。任務は、組織の若きトップ・十朱(MIYAVI)が持つ“秘密ファイル”の奪取。警察の調査で相性が最も高い室岡(坂口健太郎)との接触を手始めに、着実に、かつ猛スピードで組織を上り詰めるが、その先には誰も予想できない結末が待っていた。
Index
念願だった潜入捜査モノ
Q:原田監督と主演の岡田准一さんのタッグは『関ケ原』(17)、『燃えよ剣』(21)と時代劇が続きましたが、3本目のタッグが現代アクションとなった経緯はどんなものだったのでしょうか?
原田:潜入捜査官モノは、前からやりたいと思っていましたが、なかなかいい題材がなかったんです。でも『燃えよ剣』を製作している時に、「こういう原作はどうでしょう」と深町秋生さんの「ヘルドッグス 地獄の犬たち」を勧められました。極道社会の話だけど『地獄の黙示録』(79)の要素も入っていたりして面白い。他にも私が影響を受けた映像作品の要素がいくつも入っていました。ひとつはアメリカの30分の連続テレビドラマ『タイトロープ』(59~60)。僕の潜入捜査官モノの原点は『タイトロープ』なんですが、そこで描かれた殺し屋同士の絆と同様の要素を感じました。さらにサミュエル・フラーの『東京暗黒街・竹の家』(55)での、男たちの三角関係のような要素も入っている。これは自分がやりたかった世界だ、と。
『ヘルドッグス』©2022「ヘルドッグス」製作委員会
脚本はある程度原作から離れるかもしれないけど、それで良ければやる、という条件で引き受けました。原作者の深町さんには第一稿を読んでもらった時に、三つだけリクエストされました。印象的だったのは、ラストにもう一度、兼高(岡田准一)と室岡(坂口健太郎)の関係を見たい、と。建設的な意見だったので、その要素を入れて、深町さんも納得してくれる形で脚本ができました。あのリクエストは大きかったですね。
Q:原作はかなり長く人間関係が複雑な小説ですが、それを2時間ちょっとの映画にまとめる際に苦労されたのはどんな点でしょうか。
原田:原作は入念なリサーチを基に極道社会の背景をかなり書き込んでいました。極道社会の解説なんかがドンドン出てくる。小説はそれでいいけれど、映画はそれだと成立しない。だから冒頭でどれだけ情報過多にならないようにするかが一番苦労しました。頭で全部解説していかなきゃいけないので。
作品を見た人からは、「解説が多すぎる」といった意見は今までのところ出ていないので、そこは何とか乗り越えたかなと。あと兼高が裏社会に堕ちる動機は、想いを寄せていた少女が無残に殺されたことですが、原作で兼高はそれを人づてに聞いたという設定なんです。それを兼高が実際に体験したということにすれば、彼の病的でピュアな復讐心を表現できるなと。