1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『関根光才監督特集上映』映画・映像は人と深い対話をするコミュニケーションツール【Director’s Interview Vol.245】
『関根光才監督特集上映』映画・映像は人と深い対話をするコミュニケーションツール【Director’s Interview Vol.245】

『関根光才監督特集上映』映画・映像は人と深い対話をするコミュニケーションツール【Director’s Interview Vol.245】

PAGES


皆から生まれてくるものが面白い



Q:CM/MVの撮影では、本格的なお芝居をつけることはそれほど多くなかったかと思います。ショートフィルムや映画の撮影の際は、役者さんへの演出はどのようにされているのでしょうか。


関根:長編映画になってくるとCMやMVとはやり方が全然違います。でも僕はそれがすごく面白かった。初めて長編映画を撮ったときは、自分のキャリアをゼロにしてそれまでの経験をキャンセルして向き合おうとしました。でも実際には、自分たちが培ってきた技術や経験が生きる場面があった。CM/MVでの経験と映画の作り方、そのいいところを抽出しながら現場で融合させること。それが自分にとっても撮りやすいし、スタッフ・キャストのみんなにも意図を伝えやすかった。


役者さんとは、その役の存在感については話しますが、細かく演技をつけるようなことはしません。その役の存在感だけがお互いに握れていれば、あとは役者さんがどう解釈してくれるかどうか。そこから素晴らしいものが生まれてくるんです。その生まれてくるものをリスペクトしようと思うようになりましたし、映画ってそこが面白いんだと、だんだん気づいてきました。ただ一方で、美術の内容やカメラの位置など、どこかで自分のクセが出てくる部分もある。でもそこは、スタッフやキャストも僕のやりたいことを理解しよう尊重しようとしてくださるので、お互いにストレスなくやれているのかなと。


そして映画の場合はいかにお芝居に優先して状況を作るかが大事ですね。そのお芝居の中で何を提示しなければいけないのか、それに引っ張られて演出や現場ができていく。それに尽きると思います。


Q:『生きてるだけで、愛。』は趣里さんと菅田将暉さんが素晴らしく良かったですよね。アングルやカメラワークも格好良いのですが、そこに引っ張られることは決してなく、とにかくあの二人に引き込まれていく。突っ走る趣里さんはもちろんですが、抑制した感じの菅田将暉さんもすごかったです。


関根:原作は本谷有希子さんのすごい名作で、畏れながら自分が脚本を書かせていただきました。映画化にあたっては、女性一人称の主観で書かれた原作を客観的な話にすることから始めています。菅田さんがやってくれた津奈木という役は、実は原作ではほとんど描かれていません。男性である僕自身が、趣里さん演じる寧子という女性のメンタリティを理解したいと思ったとき、津奈木という男性の視点が必要だった。それにより対話が生まれて必然的に客観性も出てくると思ったんです。そうやって脚本を書いていくと、自分自身が脚本の中に入り込まざるを得ないので自然とこの作品が持っている本質性を感じるようになってくる。だからアングルやカメラワークも不必要に格好良くしようとしたわけではなく、必然的にその形になっていったのだと思います。


『生きてるだけで、愛。』予告


趣里さんは寧子をやりたいと自ら手を挙げてくれました。彼女自身のそれまでの人生や大変だったことなど本人と色々話したのですが、趣里さん自身が寧子を自分に重ねていてぜひ演じたいと言ってくれた。一方で菅田さんには、それまで彼が演じてきた役とは違ったある種の朴訥(ぼくとつ)とした感じを見たかった。彼と話をすると「自分は本来どちらかというとそういう人間で、そういう内面性を表現するような役はわりと少なかったかもしれない」と言ってくれました。そういった意味では、二人ともまさに寧子と津奈木としてそこにいてくれた。それがとても良かったのだと思います。


Q:予算に恵まれたCMの制作環境に慣れていると、映画やショートフィルム制作の際はかなり苦しい部分も出てくるかと思いますが、関根監督の作品はクオリティが落ちているような印象がありません。その辺はいつもどのようにして制作に臨まれているのでしょうか。


関根:そこは難しいですよね。今回上映される『Nighthawks In Bangkok』(12)という短編映画は、本当に予算の少ない自主制作でした。でも自分たちでカメラを回したりして、それはすごく楽しいわけです。一方でCMなどは予算もあって環境は恵まれていますが、創る楽しさとはまた違った楽しみ方になる。予算はあっても全てがクリエイティブや制作に使われているわけではなく、別のことにもさかれなければならない。たまに、広告だけどほぼ自主制作みたいな作品もあったりするのですが、そういうものが一番面白くて一番クリエイティブで一番記憶に残ったりする。


映画の場合は予算が少ないので、みんなが不幸なことを強いられてないか、自分が強いていないか、そういったことにできるだけ気を配るようになってきました。そうやってお互いを傷つけないように意識しながらやることができれば、メンタリティとしてはすごく豊かな場所だと思いますね。人間らしく一緒にものづくりができるし、それを自分自身も望んでいる。ある意味それは質感などにも反映されているのではないでしょうか。みんなが気持ちを込めて丹念に作るものは、やっぱりその部分が大事にされていると思います。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『関根光才監督特集上映』映画・映像は人と深い対話をするコミュニケーションツール【Director’s Interview Vol.245】