2021年にNHKで放送されたドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」(※以下「オリバーな犬」)。その内容もさることながら、脚本·演出·編集·出演を務めたオダギリジョーの才能に衝撃を受けた方は多いのではないだろうか。従来型のドラマのセオリーを軽々と飛び越え、一見自由奔放に作られたように思えるこの作品だが、前回放送時の取材で見えたのは、“ものづくり”に苦闘するオダギリの愚直なまでの姿だった。
今回放送されたシーズン2でもその勢いは止まらない。既存の枠にはまらないこのドラマを、オダギリジョーはいかなる方法で作ってきたのか?話を伺った。
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しっかり見てくれる人に誠実でいたい
Q:シーズン1では編集のことなど色々伺えて興味深かったです。今回も宜しくお願いします。
オダギリ:取材で編集のことってあまり聞かれないから覚えてますよ。とても面白かったです。
Q:ありがとうございます。CINEMOREの母体は太陽企画というCM制作会社でして、それで技術的なことも気になって色々聞くことも多いんです。
オダギリ:実は僕、若い時に太陽企画さんにお世話になったんです。俳優の仕事を始めた頃の話ですが、とにかく現場に行きたくて、知り合いに頼んで制作部の一番下として撮影現場に入れてもらったんです。それが太陽企画さんの現場でした。
Q:本当ですか⁉︎
オダギリ:はい。朝イチで現場に行って掃除して、撮影が終わるとまた掃除して一番最後に帰るような制作部の一員でした。スタッフとして、貴重な経験をさせて頂きましたね。
Q:オダギリさんがウチの現場にいたことも驚きですが、制作部として働いていたことも驚きです。そのころすでに裏方の経験があったんですね…。 では本題に移って最初の質問です。シーズン1の最後では続編の匂いが漂っていましたが、シーズン2とあわせた6回分の脚本は最初から書かれていたのでしょうか。
オダギリ:脚本を書き始めた頃は6話ぐらいで収まるかなと見積もっていたのですが、シーズン1のときに今回は3本の放送でと言われました。続編ができるかどうかは視聴者の皆さんのリアクション次第とのことだったので、とりあえず3話書いて4話目の脚本は少し手を付けただけで終わっていました。その後、放送された反応もすごく良くて、続編が決まったのが11月の半ばくらい(※シーズン1は2021年9月~10月に放送)。そこから約1カ月半で追加の脚本を書きました。
Q:1カ月半は早いですね。
オダギリ:もう本当に時間がなくて必死で書きました。
Q:シーズン1の時は脚本にかなり時間をかけたと聞きました。
オダギリ:前回はそうでしたね。今回は夏休みの宿題と一緒で、デッドラインが決まっていたので、とにかく書かなければと、火事場の〇〇力のような力が働いた気がします。
ドラマ10『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』シーズン2 Copyright NHK (Japan Broadcasting Corporation). All rights reserved
Q:今回もチャレンジングに、ある意味好き放題やっているように見えますが、すごいと思うのはちゃんと物語を推進させているところ。その辺りの客観性はどのように担保されていたのでしょうか。
オダギリ:ストーリーとしての流れはもちろん考えますが、大前提として「オリバーな犬」はただの警察ドラマだとは思っていません。大げさに言うとストーリーは二の次というか、あんまり重要視してないんです。コロナ禍の息抜きになればと書き始めたものなので、「ストーリーを見たいのであれば他の警察ドラマを見てくださいね」というくらいのスタンスでいます。だからストーリーの流れはあったとしても、その中の会話をどう揺さぶっていくか、バカバカしさをどう配置するかを大切にしています。高尚な謎解きよりも、くだらなくて道を外れるものをどこにどれだけ置いていくか、それを目標にしています。
Q:道を外れて寄り道すると、わかりづらくなってしまいそうな不安はありませんか。
オダギリ:そうですね。そこは視聴者の方を信用しています。このドラマを“ながら見”している人もいれば、しっかり見てくれている人もいる。そのしっかり見てくれる人たちに対しては誠実に向きあいたい。ながら見の人は、付いていけないことが多々起きてくると思いますが、しっかり見てくれている人はちゃんと理解できる。そうバランスを取っています。そこを信用して、大きな一歩を踏んでみたりすることもあります。
Q:脚本を書かれる時はオダギリさんだけで進めるのでしょうか。それともプロデューサーと相談しながら進めるのですか?
オダギリ:プロデューサーチームと話をするのはストーリーに関してだけです。だからそこが決まったら、あとは僕が細かいところを書いていくだけ。大きく任せてくれるので好きにやらせてもらっています。書き上がったものを読んでもらい、スケジュールや予算の都合などプロデューサー視点の相談をされる場合もありますが、それ以外はすごく自由にやれています。
また、例えば避けたい表現があって代替案見つからなかったとしても、「じゃまあ、ピー入れておきましょうか」くらいのノリで進めています。NHKという組織としては色々と問題があるのかもしれませんが、プロデューサーチームがその責任を陰で背負ってくれ、ポジティブに皆でいいものにしようという雰囲気がありますね。
Q:逆にアドバイスが欲しいようなときはありますか?
オダギリ:あります、あります。ストーリーを作る上で何かもう1ネタ欲しいみたいなときもありますから。その時はプロデューサーチームに加えて、信頼できる脚本家にブレーンとして入ってもらい、相談しています。
Q:編集ではいかがですか?つないでみてアドバイスが欲しい時はありますか?
オダギリ:編集に関してはあまり相談していないかもしれません。自分の感覚でやることのほうが多いですね。前回も話したかもしれませんが、極端にいうとワンシーン·ワンカットが一番いいと思っているんです。ただ、尺的な問題でそれが成立しないのであれば、最低限ここまでは長回しでいって、ここからはカットバックで間を切ろうとか、そういう技術的なことをエディターと話す事はあります。ただ、画の繋ぎ方も演出の一部ですから、基本的には自分の感覚を信じるようにしています。