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『シング・フォー・ミー、ライル』音楽演出:市之瀬洋一 オリジナルに負けない吹き替えを【Director’s Interview Vol.296】

『シング・フォー・ミー、ライル』音楽演出:市之瀬洋一 オリジナルに負けない吹き替えを【Director’s Interview Vol.296】

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グレイテスト・ショーマン』(17)の音楽スタッフが贈るファンタジー・ミュージカル『シング・フォー・ミー、ライル』。ショーン・メンデスが声の出演を務めた主人公<ワニのライル>役を、日本語吹替版では大泉洋が担当。台詞は一切無く歌のみで表現しきったパフォーマンスは圧巻だ。脇を固めるハビエル・バルデム演じる<ヘクター>役を石丸幹二、コンスタンス・ウー演じる<ミセス・プリム>役を水樹奈々がそれぞれ担当し、オリジナルにも負けない豪華な日本語吹替版が誕生した。


この日本語吹替版キャストの歌に演出をつけたのが市之瀬洋一氏。『リメンバー・ミー』(17)や『アラジン』(19)など、同氏が手掛けてきた日本語吹替版は素晴らしい傑作ばかり。オリジナルに負けない日本語吹替版を市之瀬氏はどのように生み出してきたのか?ミュージカル映画の吹き替え演出とは?話を伺った。



『シング・フォー・ミー、ライル』あらすじ

ニューヨーク。ショーマンのヘクターは古びたペットショップで、魅惑の歌声を耳にする。歌っていたのはなんと、一匹のワニだった。ヘクターはそのワニのライルを相棒にしようとするが、ライルのステージ恐怖症が判明し、ショーは大失敗。ヘクターは去り、取り残されたライルはたった一匹、アパートの屋根裏に隠れ住むのだった。ヘクターが残していった音楽プレーヤーを握りしめて…。長い月日が経ったある日、ひとりの少年と家族がライルの潜む家に越してくる。その少年ジョシュもまた、ライルと同じく心に深い孤独を抱えていた。ジョシュを前に再びゆっくりと歌い始めるライル。やがてふたりは、歌を通して心通じ合わせていく……。


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前提として「オリジナルありき」



Q:ミュージカル映画の吹き替えにおける演出とは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか。 


市之瀬:吹替演出は非常に特殊な仕事だと思います。前提として「オリジナルありき」なのであまり自由は無く、オリジナルの世界観を失わないよう、なるべく近づけるというのが主目的の作業となります。いろいろ制約がある中でいかにより良いパフォーマンスを引き出すか、そこが吹替版演出の難しいところであり、やり甲斐を感じるところでもあります。そのためには日本語の歌詞作りからTD(トラックダウン)作業まで徹底して妥協しないことです。オリジナルはリスペクトしますが、負けないつもりでやっています。ときには「日本語版の方がいいかもね」という評価を受けることもあります。


例えば、ディズニーの『ブラザー・ベア』(03)という作品は、アラスカのイヌイットの話でオリジナルではティナ・ターナーが歌っていたのですが、吹替版では天童よしみさんに歌って頂いたんです。そうしたら「この歌はアジア人が歌った方がしっくりするね」ということになった。アメリカ本国からこのように評価されたのは嬉しかったですね。


Q:オリジナルと同じクオリティに引き上げるのは大変な作業ですね。


市之瀬:時々本当に僕でいいのかなと怖くなります(笑)。今回はバッチリだったと思いますが、あくまでキャスティングがうまくいって初めて出来ることだと思います。



『シング・フォー・ミー、ライル』© 2022 CTMG. All Rights Reserved.


Q:市之瀬さんはキャスティングにも関わられるのでしょうか。


市之瀬:今回のキャスティングは制作の方々の熱い思いもあり、どの役も候補が一人に絞られており、僕がやることは本国のオーディションを通すべくディレクションすることだけでした。作品によっては複数の方をオーディションして選ぶ場合もありますが、今回はこのような方式でした。


Q:本国オーディションの際、大泉さんはじめキャストの皆さんにはどんなアドバイスをされましたか。


市之瀬:オーディション(ボイステスト)にしろ本収録にしろ、大半の日本人は気にならなくても英語圏の人たちには耳障りな音色や歌唱法があります。それが出ないように気を付けました。一つは「キンキンした声」です。外国人は深いところで発声するので響きがあるのですが、日本人の発声は割と浅いので時々耳障りな声に聞こえる時があるそうです。イタリアから帰って来たオペラ歌手の友人も同じようなことを言っていました。もう一つはビブラート。一部の歌手に見られるような極端なビブラートはNGのようです。また、フレーズの頭で極端にずり上げて歌うようなことも嫌います。ここをクリアしないとオーディションは絶対に受かりません。


Q:演出部分でも本国とのやりとり、チェックなどはあるのでしょうか


市之瀬:オーディションの結果を伝えるメールは演出に関する注意点などにも触れてあります。例えば「ビブラートが強いので本番では気を付けて」とか「性格描写をもっとこうすべき」とかですね。でも今回は絶賛の嵐でした。大泉さんも何かの折に触れていましたが、本国のジョディーというスーパーバイザーがとても厳しいんです。彼女は日本通で、たぶん大泉さんのこともご存知だと思いますが、大泉さんがここまで歌うとは、さすがに予想しなかったのではないでしょうか。相当驚かれたと思います。「Yoの歌声は、スウィートでエモーショナル、純粋で温かった。我々の期待を遥かに超えるものだった」とすごい高評価をいただきました。





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