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トニー・スコット監督作品まとめ カメラが躍動し滑空する!16本の傑作群

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トニー・スコット監督作品まとめ カメラが躍動し滑空する!16本の傑作群

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冒険心と芸術魂を忘れず、巨匠の風格すら漂う最後の10年



11.『スパイ・ゲーム』(01)

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引退まであと残り1日に迫ったCIAのミュアーの元へ、工作員ビショップが中国で幽閉されたとの情報が入る。彼は脳裏にこれまでの過去をフラッシュバックさせつつ、何とかしてビショップを窮地から救い出そうと手を尽くすのだがーー。CIAのベテランと彼がその才能を見込んで育て上げた工作員との絆を描いた迫真のスパイ・サスペンス。全体の3分の2が回想シーンという難しい構成ながら、舞台となる国によってトーンを使い分けたトニーの采配と、『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)以来育まれてきたレッドフォードとブラッド・ピットの関係性が硬派な味わいとなって結実した秀作に仕上がった。諜報、監視などの要素は前作『エネミー・オブ・アメリカ」にも相通じるものだが、ストーリーや人間模様の語り口、映像の質感はガラリと異なる。同じことの繰り返しを嫌うトニーならではのこだわりを感じさせる作品だ。ちなみにトニーは98年ごろ、ジョン・ル・カレ原作の「パナマの仕立て屋」の映画化に向けて現地リサーチを行ったと言われる。予算の都合で降板したものの、結果的に選ばれた本作がなおも”スパイ”を描いた映画だったのは非常に興味深いところ。


もっと詳しく!:『スパイ・ゲーム』わずかなヘリ撮影シーンに垣間見るトニー・スコットの意匠




12.『マイ・ボディガード』(04) 


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男たちの孤高の戦いを描き続けたトニーにとって、まさに金字塔とも呼ぶべき一作。彼が最初にA・J・クィネルの原作小説「燃える男」に興味を持ったのは20年以上も前のこと。2000年代に入ってようやくすべての条件、要素、タイミングが整いゴーサインが出されることに。舞台は原作のイタリアからメキシコへと変わり、国家のため血塗られた仕事を請け負い続けてきた男が、孤独な少女のボディガードとして少しずつ人間性を回復させていく物語が展開する。トニーはスタッフと共に現地で入念なリサーチを行い、脚本上のあらゆるキャラクターに実在の人物のディテールを当て嵌めることで、単なるフィクションを超えた、湧き立つようなリアリティ、むせ返るほどの臨場感を醸成した。さらにアーティスティックな撮影手法、編集技法を駆使して、主人公のすさんだ主観を独特のスタイルで表現しているのにも注目したい。二度目の起用となるワシントンと、フレッシュながら大人顔負けの存在感を見せるファニングの共演も涙無くして見られない。超必見の傑作である。


もっと詳しく!:『マイ・ボディガード』主人公の壮絶な生き様、名匠の多彩な演出を通じてラブストーリーと復讐劇を両立させた傑作




13.『ドミノ』(05)


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イギリスの新聞”The Mail on Sunday”の記事をきっかけに、トニーは実在の“ドミノ・ハーヴェイ”について興味を抱く。映画俳優の父を持ちモデル業を経てやがて賞金稼ぎへと転身したドミノ。トニーは彼女に直接会って会話を重ね、やがてその生き様を題材に大胆不敵な映画へと発展させた。ドミノをはじめ荒くれ者たちのぶっ飛んだ精神状態を投影するかのように、トニーはCMなどで培った過剰ともいえる映像演出を大量投入。DJプレイのようにセリフを繰り返し、映像もコマ送りと急停止、さらには実験的なまでに強烈な色味を抽出して、スピード感あふれる中でのアーティスティックな新挑戦を企てた。メジャースタジオの出資があれば絶対不可能な、トニーの芸術魂を自由に解き放った作品だ。ちなみに公開直前、実在のドミノは若くして死去。本作は彼女に捧げられている。




14.『デジャヴ』(06)

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ニューオリンズで大勢の乗客を乗せたフェリーが爆破される凄惨なテロ事件が発生。明晰な頭脳を買われて特別捜査班に加わったダグは、政府が極秘開発中の新システムの存在を知り、それを駆使して真相を突き止めようとするのだが…。ブラッカイマー、デンセル、そしてトニーという気心しれた三者が集結したスピード感あふれる骨太サスペンス・アクションであり、中盤からは『エネミー・オブ・アメリカ』の監視システムのさらに一つ先をゆくSF要素が鮮やかに炸裂する。常に地に足のついたリアル路線を辿ってきたトニー・スコットの”新たな一手”に、ファンの誰もが仰天した作品である。巨大ハリケーン“カトリーナ”がもたらした生々しい爪痕が刻まれているのも特徴で、被災した人々の心を奮い立たせるようなラストのクレジットが胸を打つ。ブラッカイマーと6作目にして最後の共闘となった作品。




15.『サブウェイ123 激突』(09)


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ニューヨークで武装した男たちが地下鉄「ペラム123号」を占拠。乗客の命と引き換えに1,000万ドルを要求する謎めいた犯行グループに対し、一介の地下鉄職員に過ぎない主人公ガーバー(デンゼル・ワシントン)が無線での交渉として指名され、事件解決に向け奔走する。70年代に大ヒットした『サブウェイ・パニック』(74)に着想を得ながらも設定や印象をガラリと変え、トニー組ならではの徹底したリサーチで、金融市場の動向も盛り込んだパワフルなサスペンスアクションに仕上がった。地下では列車をめぐる膠着状態が続き、地上では現金輸送の警察車輌が笑ってしまうほどのテンションで激走。その合間を縫うように、無線を通じた主人公VS犯人(ジョン・トラヴォルタ)の、硬派な演技バトルが重ねられていく筋書きも見応えたっぷり。




16.『アンストッパブル』(10)


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大量の化学薬品を積んだ貨物車が制御不能の暴走を開始。このままでは行き着く先の住宅密集地で大爆発を起こしかねない。最悪の事態を回避すべく、近くに居合わせた年齢も性格も全く異なる二人の鉄道員が駆けつけ、命がけで暴走を止めようとするのだがーー。生涯にわたって多種多様なヴィークル・アクションを創出してきたトニー・スコットの最期の作品は、前作に続き「列車の暴走」にこだわり抜いた一作となった。製作費や撮影日数も限られる中、トニーが提案したのはとにかく大量のカメラを準備し、少ないテイクで必要な映像を一気に撮り上げること。手持ちや固定カメラに加えて、併走する車輌や上空を飛ぶヘリからも列車内の二人の姿を捉えるなど、さすが現場経験の豊富な巨匠のやることは全てにおいて無駄がなく徹底している。歴代のトニー・スコット作品と比べると驚くほどシンプル。だがそこにはトニーらしい趣向がふんだんに詰まっていて、本編時間のボリュームでは推し量れないほどの密度がある。一瞬たりとも間延びすることのない、ただひたすらワクワクする最高な贈り物を、トニーは我々のもとへ届けてくれた。


もっと詳しく!:『アンストッパブル』トニー・スコット最期の傑作。シンプルな構造にみなぎる躍動感とリアリティ



『アンストッパブル』から2年後の2012年8月19日。トニー・スコットはロサンゼルスのサンペドロにかかるヴィンセント・トーマス橋から飛び降りて死去。当時、彼は複数の映画企画を抱えており、特に『トップガン』続編の動向には世界中の熱い視線が注がれている最中だった。それから10年、様々な努力と執念が身を結んで公開を迎えた『トップガン:マーヴェリック』(22)のエンドクレジットには、「トニー・スコットに捧ぐ」との言葉が熱く刻まれている。



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。

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