映画に厳しく向き合っていたペ・ドゥナ
Q:以前、別の作品でお話を伺った際に、「最近はテイクを重ねることは少ないけれど、昔は粘って撮っていた」と仰ってました。この映画でもテイクは重ねられたのでしょうか。
山下:これは少ない方だと思いますね。覚えているのは夜の屋上のシーンで、「こういうときのことって忘れないからね」と、女の子たちが他愛ない話をするところ。ワンシーンワンカットで多分3分以上あるのですが、あそこはめちゃくちゃ回しました。8テイクか9テイクくらい回していて、フィルムをロールチェンジをするたびに胃が痛くなってました(笑)。なんか自分の中でこだわりがあって、役者にもうまく説明できないけれど「もう1回いいですか?」と何度もやりました。こっちの子がすげぇ良いなと思えば、別の子があまりうまくいかなくて、「もう1回」となる。今度は別の子がうまくいって、他の子がダメでと。負の連鎖みたいになって、何が正解かわからなくなっちゃった(笑)。結局後で見たら全部良くて「全部使えるじゃん!」みたいになるんですけど(笑)。
Q:あのシーンは他愛ない会話が続く中にも、「こういうときのことって忘れないからね」「本番のライブは、たぶん夢中でやっちゃうから、あとはなんにも覚えてないの」といった、肝になるセリフが入ってくるんですよね。
山下:そうなんですよ。それに対して「なんか望が熱いこと言ってるよ」と笑い、そこにペ・ドゥナが「笑っちゃダメだよ」と口を挟み、他愛ない会話が続くのですが、東京でリハをやっているときにすごくいい瞬間があったので、それを再現したかったんですね。リハで自分の中の理想が出来ちゃったんです。リハもやりすぎちゃダメだなと。リハで成果を出しちゃうと本番でドツボにハマる(笑)。
Q:最近はリハはあまり行わないのでしょうか。
山下:作品によってはやりますね。でもこのときみたいに全シーンやるとかはないかな。当時は全シーンどころか脚本に無いシーンまでいっぱいやっていました。萠(湯川潮音)が骨折して、みんなで病院にいく前日談からやっていて、病院の待合室で「どうしよっか?学園祭のライブ」みたいなところから、全部エチュードでやっていました。
『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
Q:ソン役のペ・ドゥナさんがとにかく素晴らしく、言語の壁も超えて脚本の理解度は完璧だったのでしょうか。
山下:何となくですが、映画への向き合い方や意識はぺ・ドゥナが一番高かったですね。たぶん韓国映画界って、映画に対する意識が日本よりも高くて、僕に対しても厳しかったし、本人は「何回でもやりますよ」というスタンスでした。もちろん他の3人も真剣にやっていましたが、フレームサイズまで気にするのはペ・ドゥナだけで、「私も見ていいですか?」と、自分がどこまで映っているかを確認した上で芝居をしていました。ペ・ドゥナに演出するのが一番緊張しました(笑)。
Q:言語の壁がありましたが、コミュニケーションはうまく取れたのでしょうか。
山下:ペ・ドゥナは通訳がいること自体にすごくジレンマがあったようでした。彼女は僕から直接聞きたいのに、僕は英語も韓国語も出来ないので通訳を通してしか会話できない。そこにイライラしていましたね。例えば僕が「こうしてよ」と説明すると、ほかの子たちが笑うときがある。その理由がペ・ドゥナはわからないわけです。でもその笑いの理由に監督の意図があったりして、そういうことは脚本だけではわからない。そこは大変だったようですね。