フィルム時代の映画の作り方
Q:4Kリマスターの作業は池内さんと行われたのでしょうか。
山下:僕らが関わったのは最終チェックぐらいですね。高解像度になって色んなものが見えてくるのですが、あんまり見え過ぎても面白くない。見えないところは見えないままでいいんじゃないかと。2005年当時の印象からは変えないようにしました。
Q:当時はまだグレーディングなどなく、全てタイミングで色調整されていたと思いますが、作品にはその良さが出ていますよね。
山下:そうそう、フィルムの不自由さというかね。今はパソコン上で編集して映画の全体像も通しで見ることができますが、当時は1ロールずつ20分、20分、20分、20分と確認することになるので、要は通しで見ることができなかった。ダビングが終わって0号を観て初めて「こういう映画になったんだ」とわかる。フィルム時代の映画の作り方って、今とは根本的に何かが違いますね。
確実に言えるのは、とにかく昔は撮影部が怖かったです(笑)。フィルム撮影でいつもピリついていて緊張感があった。みんな常に2手先ぐらいを想像しながら作っているような感じもありましたね。今は現場のモニターですぐに答えが分かるので、まぁそこで良くなった部分もいっぱいあるのですが、昔とは使っている脳みそも変わってきているような気がしますね。
『リンダ リンダ リンダ 4K』©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
Q:20年を経て再びスクリーンで上映されることへの思いを教えてください。
山下:初めてスクリーンで観る人もいるわけで、そういった人たちの感想が気になりますね。この映画が出来た時にまだ生まれていなかった子が、これを観たときにどう感じるのかなと。「古いね」なのか「ブルーハーツが良かったね」なのか、そうやって何を感じ取るのか。その感想が最終的に残った搾りかすのようなもので、『リンダ リンダ リンダ』が20年経ってもまた上映させてもらえる魅力というか、それがこの映画の核なのかもしれないなと。
昔の青春映画だったら「大人への反抗」とか、「恋に悩む」とか、「童貞を捨てたい」とか、そういう何かに特化するんですけど、この映画って何かに特化していなくて、ただバンドをやるだけ。それが誰かの命を救うわけでもないし、本当にただ文化祭でやるだけ。ネタとしてはすごく淡いんですけど、その淡さがゆえに、今の若い人にも敷居が低く何かを受け取ってもらえそうな気もするんです。何かに特化すると時代とズレて古びることもあると思うのですが、その時代特有のヒリついたテーマみたいなものもないし、そういった強みがこの映画にはあるのかなと。
『リンダ リンダ リンダ 4K』を今すぐ予約する↓
監督・脚本:⼭下敦弘
1976年8月29日、愛知県出身。大阪芸術大学映像学科卒。卒業制作の『どんてん生活』(99)が国内外で評判を呼び、脚本の向井康介とのコンビによる”ダメ男三部作”『ばかのハコ船』(03)、『リアリズムの宿』(04)を制作。『リンダ リンダ リンダ』(05)が高く評価され、つづく『天然コケッコー』(07)では第32回報知映画賞監督賞、第62回毎日映画コンクール日本映画優秀賞などを受賞。その後も『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、ドラマ「午前3時の無法地帯」(13/共同監督・今泉力哉/BeeTV)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)、『オーバー・フェンス』(16)とキャリアを順調に積み重ね、作家性と娯楽性とを兼ね備えた作風を確立してゆく。『ハード・コア』(18)では第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。その他の近年の主な作品に、脚本家・宮藤官九郎とタッグを組んで挑んだ『1秒先の彼』(23)、『カラオケ行こ!』(24)、ロトスコープアニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(24)などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『リンダ リンダ リンダ 4K』
8月22日(金)新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
配給:ビターズ・エンド
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ