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生き様は心で決まる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が示した、シリーズの“魂”
2019.12.22
カイロの「悩む」シーンの多さが意味するもの
レイと真逆で、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』からじっくりと心情描写が行われてきたのが、カイロ・レンだ。彼もまた、ステレオタイプのヴィラン(悪役)とは多くの点で趣を異にしている。
元々カイロは、ルークの弟子の1人だった。だが、暗黒面に落ちる未来を予見したルークによって暗殺されかけ、筆舌しつくしがたい絶望と憎悪で敵方に加わってしまう。祖父であるダース・ベイダーを崇め、自らの居場所は暗黒面にしかないのだと言い聞かせるが、ジェダイとしての「光」が妨げになり、悪に染まり切れない。父ハン・ソロを殺害する際も、ためらい続けた結果、苦渋の決断。母レイアにおいては、最後まで砲撃のスイッチを押せなかった。時に軟弱にも思えるカイロもまた、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』で遂に自分の行く末を選択する。
悪の権化の祖父の影に苦しみ、偉大な父母の期待に応えられない自分を責め、光と闇を行き来する悩める青年。カイロの試練は、本作でも続行する。非情になろうと努めるが、心のどこかで「理解されたい」と欲し、気づくとレイを探している――。まるで悲劇のラブストーリーのような複雑にねじれた感情は、レイと剣を交えても変わることはない。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(C) 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
レイとカイロ。この2人のキャラクターの面白さは、善の側にいる人物の暗さが描かれ、悪の側にいる人物の高潔さが描かれる部分だ。つまり、レイはヴィランになりかねない危ういヒーローであり、カイロはヒーローの要素を持ったヴィランであるということ。白と黒にはっきり分かれているのではなく、どちらもグレー。この微妙な均衡が、どちらに転ぶか分からない緊迫感を生み出すと同時に、『スター・ウォーズ』シリーズがこれまでにもずっと描いてきた「生き方を決めるのは、心」というテーマを強めていく。
思えば『スター・ウォーズ』エピソード1から3は、アナキン・スカイウォーカーという純真な主人公が、いかにしてダークサイドに落ちていくかを描く一種のピカレスクものであった。ここでも訴えられたのは、ジェダイをジェダイたらしめているのは力ではなく、心だというメッセージ。本作は、そうしたシリーズの精神を正しく受け継ぎ、レイとカイロという2人のキャラクターの性格面に反映することで、見事に昇華している。
アナキンとオビ=ワン・ケノービ、ダース・ベイダーとルーク、本シリーズではこれまで二者間の対立や不和を描いてきた。しかし続三部作では、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ではレイとカイロの共闘シーンが描かれ、2人がテレパシーで語り合うシーンも頻繁に登場。2人が手を取り合う可能性を見せることで、スカイウォーカー家の哀しい運命に一条の光を感じさせる。さらに、善に行くか悪に行くかは未知数という提示の仕方をすることで、ダークでスリリングな雰囲気も醸しだしている。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(C) 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
そしてこの2人のドラマが、銀河の命運にも直結していく。本作のアクション面の進化具合には目を見張るが、3部作全体を通して観ると「悩む」レイとカイロのシーンが圧倒的に多い。これはかなり異質な構造であり、『スター・ウォーズ』続3部作は、これまでにも増して人物の掘り下げが意識的に行われているといえるだろう。
繰り返しになるが、「心」を描いた映画であるということだ。