レザーフェイスの開発
リアリティ演出の二つめに、美術チームのこだわりがある。実は本作は、実際に起きた事件を参考にしていた。ヒッチコック『サイコ』(60)のモデルにもなったエド・ゲイン事件である。死別した母親との屈折した愛憎が原因で精神を病み、様々な経緯の結果、他人の墓場から掘り起こした人骨や皮を使って家具を作っていたという猟奇的な犯罪である。
本作で監督と美術チームは、その事件を参考にしつつ、それを上回る狂気のインテリアを作り上げることに成功した。本物の動物の死体を大量に解体し・・・とここに書くことをためらわれるほど徹底的に本物主義でこだわり、その絶妙なクラフト感によって、本当に殺人一家が作ったかのような粗野な感じが描写されている。
『悪魔のいけにえ』(c)Photofest / Getty Images
そしてプロダクションデザイナー、ロバート・バーンズの最大の功績は、本作のアイコンにして映画史上最高のヒール、“レザーフェイス”の造形デザインであろう。巨体にエプロン、死体の顔の皮を剥いだマスクをつけ、豚のような鳴き声を撒き散らしながらチェーンソーで襲う姿は、見てしまったが最後、トラウマになること必至である。
針金で無理やり縫製したレザーマスクは3タイプあるのだが、そのうちの一つ、食卓用の女性バージョンに乱暴に化粧を施し、パーマがあてられたウイッグをかぶり、本当の狂気に向けて突進する最後の追跡シーンのレザーフェイスは、本当にやばい、恐ろしい。
監督の映画的探求
そして最後にリアリティを添えるのは、16mmフィルムによる撮影と、不気味なサウンドエフェクトである。35mmフィルムよりも粒子感が出て粗い感じがドキュメンタリーっぽさを演出し、観客が事件の当事者であるかのような錯覚を与えることに一役買っている。また、盛り上げるための音楽も一切なく、あるのは耳障りな金属音が打ち鳴らされるだけ。実は低予算のために、35mmでの撮影や音楽を作る余裕がなかったのが事実なのだが、その素っ気なさもまた良いのだ。
また、よくよく見ていると、カット割りはいたってまともで、アングルもカメラワークも計算されていることがわかる。殺人のシーンもレイティングを気にして、抑制の効いた演出をしている。逆に想像を掻き立て、怖さが増している。メイキングを見ると撮り直しも多く、意外と?試行錯誤しながら演出していることがわかる。
『悪魔のいけにえ』(c)Photofest / Getty Images
台本には概略しか書かれてなく、現場で決めていったことが多かったようだが、しっかりと冷静に映画を撮っていたことが伝わってくる。若気の至りで、やりたいことを追求できたのは大きいだろうが、決して勢いだけで乱暴に作ったわけでは無く、トビー・フーパーは、新時代の恐怖映画を本気で作ろうとしていたのだ。
撮影後、編集には1年半もの時間をかけ、とうとう完璧なホラーフィルムを仕上げることに成功した。皮肉なことに、多くのスタッフやキャストは、映画の存在を忘れてしまい、完成したことに驚いていたという。