モンスターはどこまでも・・・
本作は大成功して一人歩きしていくわけだが、前述したように、本作の配給会社は普通の契約条件を結ばせなかったため、大ヒットしたにもかかわらず、キャストへの金銭還元は全くなかったらしい。しかもレザーフェイス役の俳優に至っては、殺しの直接的な画はほとんど見せていないのにも関わらず、残虐の限りを尽くしたスプラッター殺人鬼だと思いこまれてしまっていた。本人はその後、同じような役ばかりが殺到し、俳優として大変困っていたという。
大なり小なり、俳優やスタッフの多くはその後の人生が本作によって左右されてしまった。監督のトビー・フーパー自身も、生涯、処女作越えを期待され続けることになってしまう。自主映画の延長で徹底的にこだわり抜いた本作が、まさにモンスターのように大きくなり唯一無二の作品となってしまったため、周囲からはより大きな衝撃を求められるようになってしまった。
正式な続編の『悪魔のいけにえ2』(86)、スピルバーグ製作総指揮の『ポルターガイスト』(82)、コリン・ウィルソンの原作を映画化した『スペースバンパイア』(85)等、独特の美学に溢れた作品を産み出し続けたが、2017年、次作を期待されつつ、他界した。
『ポルターガイスト』予告
計算とアドリブが高いレベルで混在した本作は、なかなか真似ができるものではないため、40年以上経った今でも、演出スタイルが古く見えず、十分怖いと思わせられる。見ていない人にはオススメしたいのだが、『悪魔のいけにえ』というタイトルを伝えた瞬間に、苦虫を噛んだような表情をされることが多い。
いっそ原題の「THE TEXAS CHAINSAW MASSACRE(テキサス チェーンソー 大虐殺)」の方が、ドキュメンタリー感が強くて良いタイトルだと思うので、邦題から原題へ戻して欲しいと思うのだが・・・まあ、どっちもどっちか。
<参考>
文:江口航治
映像プロデューサー。広告を主軸に、メディアにこだわらず幅広く活動中。
カンヌはじめ国内外広告賞多数受賞し、深田晃司監督『海を駆ける』(18)やSXSWへのVR出展など、様々な制作経験を経たプロデューサーならではの視点で寄稿してます。
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