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『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (後編)

(c)Photofest / Getty Images

『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (後編)

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MAGIの担当箇所



 MAGIの担当パートは物語の中間部分で、ライトサイクル、エレクトロニックタンク、レコグナイザーといったメカが主役になる。


 MAGIは1966年に、物理・数学者のフィリップ・ミッテルマンが設立した会社である。ここで彼は、放射線をトレースする技術を光線に応用した、レイファイリング・アルゴリズム(*3)というレンダリング技術を考案した。これはトリプルアイが用いたスキャンライン・アルゴリズムと異なり、1画素ずつ視線とオブジェクトの交点を求めていくため、計算時間が掛かるという問題を抱えていた。だがMAGIは、解法が非常に美しいという理由でこのアルゴリズムを選択する。


 しかし、ワイヤーフレームやポリゴンを扱うのには不向きであるため、方程式で球、楕円球、円筒、円錐、放物面、角柱、角錐、トーラスといったプリミティブ(基本図形)を作り、これらを集合論的ブーリアン演算で足したり引いたりすることでモデリングする、CSG(空間領域構成法)という方法を採用した。


 そして1972年という極めて早い時期に、MAGI/シンサビジョンというCGプロダクションを設立し、CMや科学映像などを手掛けた。また映画にも積極的で、『未知との遭遇』(77)のコンペでトリプルアイと争った他、『デモン・シード』(77)にはユタ大学大学院と共同で参加している。


『デモン・シード』予告


 だがCSGで表現できる形には限界があり、あまり複雑なメカや有機的フォルムなどは無理だった。その結果シド・ミードは、MAGI側が「これなら可能」という所まで歩み寄るという方法で、メカの形を絞り込んでいく。その典型がライトサイクルだ。元々のミードのデザインは、トロン(ブルース・ボックスライトナー)たちの身体がトランスフォームし、そのままライトサイクルになるというアイデアだった。だが、人間的形状はCSGでは無理だということで、変形過程をアニメーションで表現する方法が選択された。


*3 1979年にAT&Tベル研究所のターナー・ウィッテッドにより、光の鏡面反射や屈折透過、影を正確に表現出来る「レイトレーシング・アルゴリズム」として拡張され、現在はこちらの名称が用いられている。



MAGIとディズニーのコラボレーション



 しかしもう1つ、MAGIを悩ましていた問題があった。人材の不足である。技術者はこの作品のために大幅に強化されたが、クリエイティブ関連でMAGI/シンサビジョン・チームを、発足時から率いてきたボー・ゲーリングが独立してしまったのである。彼の抜けた穴はラリー・エリンが支え、クリス・ウェッジのような有能な新人も雇ったが、どうしてもアニメーションのスキルが伴わない。


 そこでリズバーガーが提案したのは、ディズニーにいるクロイヤーに協力を求めることだった。つまり彼は、ライトサイクルなどの動きのタイミングを直接指導する、コレオグラファー(振付師)という役回りである。


 しかしそのやり方にも問題があった。MAGIの場所はニューヨーク州エルムズフォードで、ディズニー・スタジオはカリフォルニア州バーバンクにあり、飛行機で頻繁に移動するというわけにもいかない。そこで両社の間に専用ネットワークが結ばれ、低解像度の白黒画像をやり取りし、最終的に高解像度カラー画像を音響カプラーで送信するという方法が考案された。現在なら、インターネットで簡単に済む問題だが、この時代はインフラ作りから始めなければならなかったのだ。



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