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『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶

『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶


 フィリップ・カウフマン監督は、超音速の壁に挑んだテストパイロットたちや、米国発の有人宇宙飛行を実現させるマーキュリー計画を題材としたノンフィクション「ザ・ライト・スタッフ‐七人の宇宙飛行士」の映画化に取り組む。


 当時は、モーション・コントロール・カメラとオプチカル・プリンターを駆使する、複雑な合成映像が全盛だった。しかしカウフマンは、あえて30年近く時代を逆行したようなローテクをスタッフに要求し、さらに個人で活動する実験映像作家を起用するなど、斬新な方法で特撮シーンを生み出した。


 その結果、今日の目で見てもまったく古さを感じさせない、非常にリアリスティックな映像が実現された。


Index


ジョーダン・ベルソンの起用



 自ら脚本を書き上げた監督のフィリップ・カウフマンは、実制作を開始するに当たって、プロデューサーのロバート・チャートフ&アーウィン・ウィンクラーや、製作スタジオのラッド・カンパニーを説得し、サンフランシスコを拠点に選んだ。彼はハリウッドで仕事するのが嫌いだったのである。そして彼は、かつて製缶会社の倉庫だったウォーターフロントの古い建物にオフィスとスタジオを構え、撮影プランを練り始める。


 実は彼には、ずっと心に残っていたことがあった。それは1977年に中断された、『スター・トレック』の劇場版『Star Trek: Planet of the Titans』のプロジェクトである。この作品には後の「ヴィジャー」の原型となる、宇宙空間を移動する巨大な雲という設定がすでにあった。そしてこの時にカウフマンが考えていたのが、この雲の制作をジョーダン・ベルソンに依頼するということだった。



 ベルソンは、サンフランシスコを拠点とする実験映像作家で、50年代はモリソンプラネタリウムブリュッセル万博の、ドームを使ったマルチメディアショー(*1)「ヴォーテックス・コンサート」を行っていた。そして60年代に入ると、インド哲学、ヨガ、仏教などの精神世界をモチーフとしたアブストラクト(抽象)フィルムを立て続けに発表し、ヒッピーたちのグル(導師)になっていく。


 彼は徹底した秘密主義者で、その技法を決して明かそうとはしなかったため、具体的なテクニックは今も謎のままである。


 カウフマンはベルソンと契約し、『ライトスタッフ』向けに16mmのテストフィルムの制作を依頼する。これは、カウフマンが意図している抽象的イメージが、プロデューサーやラッド・カンパニーにサッパリ理解されなかったからだ。とにかくベルソンの作る天界の光のような映像は、言葉で表現するのが難しい。そして、宇宙飛行士が体験する超現実的イメージのサンプル映像が出来上がり、ようやくスタジオの上層部も許可を出すことになる。


 そしてベルソンは、初めて自分のオプチカルシステムに35mmカメラを搭載するが、これまで使ってきた16mmカメラと違って振動が大きく、劇場作品に使えるほどの精度を出すまでに手間取った。また、カウフマンが求める画面のパースペクティブやアングルが、自分のシステムの限界を超えていたため、15回以上もダメ出しをされる。



 そして2年以上掛けて、ようやく美しい映像が完成した。彼が担当した箇所は、チャック・イエーガーがXS-1(1948年以降はX-1)が音速を突破した時に見る、彩雲のような虹色の雲と、リア・プロジェクションの背景。X-1Aでマッハ2.44を記録した瞬間のイエーガーの主観ショット。同じく彼がNF-104Aで成層圏に達した時の高層の淡い大気。さらにマーキュリー計画の乗員たちが見る、オーロラのような幻想的な光。ジョン・グレンフレンドシップ7が飛行中の地球表面の雲と、そのカプセルを取り巻く宇宙ホタルなどである。


*1 今で言うマルチメディアとは意味が異なり、映像、照明、立体音響などを組み合わせた、ライブショーを示す。



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