(c)1983 The Ladd Company. All.rights reserved.
『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶
さらに開けた場所での撮影
こういった作業は、USFXの裏の路上で行われている。しかし、大きく抜けた空を撮るには限界があった。そこでスタジオから3.2km離れた所にある、キャンドルスティック・パーク(野茂英雄が大リーグでデビューしたことで知られる球場)が見降ろせる丘を撮影地に選ぶ。ここはかつて孤児院があった所で、マンションを建設するために更地になっていたのだ。
ここで撮影されたのは、イエーガーがNF-104Aの高度記録に挑戦する場面で、プラモデルの尾部にオモリを仕込み、ヘリウム気球で上昇させるという、冗談みたいな方法で撮影された。模型を吊るすワイヤーは、気球がフレームに入らないように15mの長さがあり、フィッチャーが4kmの高さまで望遠レンズで追跡した。
さらに、フレンドシップ7の再突入シーンで行ったように、高所作業車からワイヤー(約30m)を斜めに張り、XS-1とX-1Aを滑り落としながらドリー撮影した場面もある。もっと単純な手法では、模型を高所作業車から吊り、振り子運動をさせながら撮るということも行われた。
『ライトスタッフ』(c)1983 The Ladd Company. All.rights reserved.
またワイヤーを水平に張り、X-1Aのノズルにエステス・インダストリーズ製の模型用ロケットエンジンを取り付け、その推進力で飛ばした場面もあった。この時は、10~12fpsという低速度撮影をしてスピード感を出している。ある時、突然ロケットエンジンが爆発し、模型の後部が噴き出した炎と共に吹っ飛んでしまった。その時、手持ちで撮っていた特撮カメラマンのジョン・ファンテ(*12)は、驚きでカメラを激しく揺らしてしまう。結果として、非常に臨場感のある映像になったそうだ。
やっていることは1952年のB級SF映画『Radar Men from the Moon』と基本的に同じなのだが、結果としてこの方法が、一番リアリティがあったということだ。
この場所での撮影では、大規模な雲を表現するために、魚雷艇の煙幕発生装置が使用された。この装置で発生させた特殊な煙は、100m以上も上に広がり積乱雲に似た形になる。これに加えて、カメラ近くで大型の殺虫剤噴霧器を使って前景の雲を表現し、画面に奥行きを持たせると同時に、ワイヤーの存在を不明瞭にしている。
一方、彼らを悩ませたのは近所の住人からの苦情で、警察官や消防署員が頻繁に見巡りに来た。
*12 『スター・ウォーズ』の史上初となるパロディ作品として有名な、『ハードウェア・ウォーズ』(78)のカメラマン。
宇宙空間の表現
このようにリアリスティックな映像が仕上がってくると、初期にモーション・コントロール撮影とブルーバック合成で仕上げられた、マーキュリー宇宙船のシーンの不自然さが目立つようになっていく。
このパートを担当することになったホルマンは、一度完成した合成ショットに対し、オプチカル・プリンターのレンズに紗を掛けてデュープすることで、地球の背景とマーキュリー・カプセルの馴染み感を改善した。(*13)
さらにホルマンは、地球の表現でも頭を悩ませた。自分で描いたマット画にせよ、NASAの写真にせよ、それを撮影しただけではどうしても平面的に感じられるのだ。そこで様々な実験を繰り返した結果、直径120cmの半球ミラーに反射させることにした。ここに映り込ます素材は、地球のスライド写真を修正したもので、これを動かしながら一度撮影する。そしてこの映像をリア・プロジェクションし、これと向かい合う位置に置いた半球ミラーに反射させ、リア・スクリーンとミラーの間に設置したカメラで下から(カメラがミラーに写り込まないように)撮影した。こうすることで丸みを帯びた球面上を、雲が流れて行くような雰囲気が表現された。
*13 この結果、まるで宇宙空間に大気があって、淡く霞んでいるかのような仕上りとなった。科学的正確さを重要視する人ならツッコミ所なのだが、この映画における衛星軌道上‐特にフレンドシップ7の飛行シーン‐の描写が幻想的であるため、さほど違和感はない。むしろ、このシーンに繋ぎこまれているベルソンが作った地球の映像の方が、やや他のショットから浮いている。ホルマンは「ベルソンの映像はとてもシュールで、現実と狂気の境界に在るようだった。でも彼の映像は、本当に地球が生きているように見える」と語っている。