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『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶

(c)1983 The Ladd Company. All.rights reserved.

『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶

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フレンドシップ7の再突入シーン



 こうしてOKになったショットがどんどん増えて行った。しかし未だに解決していなかったのが、フレンドシップ7の再突入シーンである。


 アイデアとして、花火に使用される金属粉末を燃焼させたり、カプセルの底にスコッチライト(*10)を貼って発光させる、などといった様々な実験が繰り返された。さらに、熱遮蔽板と逆推進ロケットが溶け落ちる雰囲気を表現するために、シェービングクリームの泡や液体窒素で凍らせた水銀、氷、アイスクリーム、ゼリーなど様々な素材が検討されたが、どれも無駄に終わる。


 結局、カプセルに液体窒素を吹き付け、オレンジ色でライティングする方法が、もっとも見込みがあると思われた。そこで、熱遮蔽板の周辺と逆推進ロケットから液体窒素が出る仕掛けを作り、ガスを送風機で吹き飛ばしながら、強く背後より照明することで、リアルな再突入シーンが生み出された。逆推進ロケットやその結合索が白熱している雰囲気は、スコッチライトを貼って表現している。



『ライトスタッフ』(c)1983 The Ladd Company. All.rights reserved.


 しかしこの手法で表現できたのは、クローズアップとミディアム・ショットだけだった。そのため編集チームから、「もっと引いた絵が欲しい」という希望が出る。スタッフはそのイメージをつかむために、再突入の膨大な記録フィルムを丹念に見て行った。カウフマンは、パチパチと花火のように燃えながら落下してくるカプセルの映像を見付けて、「この感じが欲しい」と要求した。


 方向性が見えた所でグティエレスは、フィッチャーと共に新たなテストにチャレンジする。これは30cmサイズの耐火性カプセルに、適当に調合した燃焼素材を塗り付けて発火させ、USFXが入るビルの3階から落して高速度撮影するという、かなりワイルドな実験だった。


 この結果にカウフマンは大喜びし、ここから屋外を中心とした特撮が始まって行く。パイロテクニシャンのセイン・モリスと、特殊効果マンのデイヴ・ピアーが、チタンとマグネシウムの粉末にスチールウールを加え、ラバーセメントで混ぜた燃焼素材を、アルミ製の30cmのカプセルに塗った。そして、ダウンタウンの駐車場に高所作業車を止め、ワイヤーを24mの高さから斜めにピンと張る。そして夜になるのを待ち、カプセルに火を付けて滑り落とさせ、様々な角度から高速度撮影した。


*10 スコッチライトとは、光学式モーションキャプチャー用のマーカーや、フロント・プロジェクション用スクリーンにも使用されている素材。日常生活でも、道路標識や夜間の交通安全用品などに広く使われている。表面には微小なビーズが敷き詰められており、光を入射角と同じ方向にのみ反射させる、再帰性反射という性質を持っている。そのためこれを発光させるには、カメラと同じ位置からライティングする必要がある。そこで、カメラに対し90度の位置にライトを置き、レンズ前に45度の角度でハーフミラーを設置することで、カメラと照明の光軸を一致させる。こうすることでスコッチライトを貼った個所は、光を反射しているというより、それ自体が眩しく発光しているように感じられる



航空機模型の屋外撮影



 グティエレスはこの成功をヒントに、航空機の表現にも応用できると考えた。そして前回と同様に、X-1Aの硬質ウレタン製模型を3階から落下させて、下から撮影する実験をフィッチャーにやらせる。カメラ前にスモークを発生させ疑似的な雲を作ることで、この中からX-1Aが飛び出してくる、非常にリアルな映像が撮れた。これがうまく行ったので、グティエレスはXS-1とNF-104Aの模型でも試してみる。カウフマンは本当に喜び、プロジェクトの方向性が非常に明確となった。


 グティエレスはこの逆に、窓から落ちて行く模型を上から撮るパターンも思い付く。そこでホルマンに、18×12mの巨大カンバスにモハーヴェ砂漠の絵を描かせ、X-1Aが制御不能になって落下していく様子を上から撮った。



『ライトスタッフ』(c)1983 The Ladd Company. All.rights reserved.


 だんだん大胆になっていったグティエレスは、NF-104Aが実際の大空を背景に飛ぶ様子にチャレンジする。そこで模型を大量に用意し、アルミ製のレールと外科用のゴム管で作ったクロスボウで打ち出して撮影された。NF-104Aの機体は市販のプラモデルの表面に、アルミテープを貼って金属光沢を出したもので、70機以上のキットが使われている。地面に激突して壊れないように、スタッフがパラシュート用の布を拡げて受け止めていたが、破損した場合はその場で応急修理して限界まで酷使されている。


 市販のモデルキットは、X-1Aの母機となるB-29にも使われている。プロペラが回って写るように適切な回転数が得られる可変速モーターが仕込まれ、X-1Aを自動的に落下させるタイマー機構もセットされた。このB-29は、USFXの裏で4.5mの高さからワイヤーで吊られ、カメラを揺らしながら4倍速で撮影している。(*11)


 ちなみにXS-1における同様のシーンは、スタジオ内で撮られたものだ。


*11 80年代のアメリカの特撮マンたちにとって、ピアノ線でミニチュアを吊るという行為は、前世代の手法を象徴するものであり、苦渋の選択だった。実際ホルマンは、「模型を空中に吊るすなんて子供騙しに見えた」と発言している。彼らは「模型は動かないように固定し、モーション・コントロール・カメラの方が動く」というという、ILMやダグラス・トランブルらによって開拓されたセオリーこそ、新しい世代のテクニックだと信じ込んでいたからである。だが、このB-29からX-1Aが切り離される場面は、この作品中もっともリアルな映像になっている。



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