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『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶
「ハイテク=リアル」ではない
筆者はこの映画が公開された当時、オプチカル合成の技術者を辞めて、日本初のCGプロダクションでディレクターを始めたころだった。だからハイテクノロジーこそ、映像の質を高める要素だと信じ切っていた。だから「模型を風船からワイヤーで吊った?」「ボードにチョークで背景画を描いた?」「今時スクリーンプロセス?」「プラモデルをゴムで飛ばした?」…などと、メイキング情報に心底驚いたものである。しかも結果として、記録映像に完全に溶け込む自然なルックを実現させていたから、ますます驚くことになった。
「ハイテク=リアル」ではないというのは、CGが発達した現在にも当てはまる。本稿では悪者になっているミニチュアのモーション・コントロール撮影だが、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14) や、2018年度の第91回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『ファースト・マン』(18)では、CG以上のリアリティをもたらしていた。
『ファースト・マン』予告
さらにスクリーンプロセスも、高輝度のデジタルプロジェクターや大型LEDスクリーンの進歩によって、グリーン(ブルー)バック合成に代わる技術として復活しつつある。これならば、「セットや衣装に背景と同色は使えない」とか、「光沢のある材質は背景の色を拾うからダメ」という問題も解消される。さらに、映り込みや照り返しが自然に表現され、何より監督や俳優が撮影現場で完成画面をイメージしやすいというメリットもある。
例えば、『オブリビオン』(13)や『インターステラー』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)、『ファースト・マン』、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18)、『マンダロリアン』(19)などがそうだ。
要は先入観にとらわれることなく、「その映像を表現するのに最も適した手法は何か?」と、考えるのが重要だということである。そのためには、古い手法から最新テクニックまで、一通りの知識を持つことが重要なのだ。学生たちに映像技術史を教えている時など、「CGで何でもできる時代に、こんな知識いるんですか~」などと言われてしまうのだが、そんな場合、この『ライトスタッフ』が良い実例となる。
【参考文献】
■トム・ウルフ 著: 「ザ・ライト・スタッフ‐七人の宇宙飛行士(中公文庫)」中央公論社 (1983)
■Adam Eisenberg 著: 「Low-Tech Effects‐The Right Stuff」Cinefex No.14 (Oct. 1983)
■John Noble Wilford 著: 「'The Right Stuff': From Space to the Screen」The New York Times (Oct. 16, 1983)
■DVD「Jordan Belson: 5 Essential Films」CVM (2007)
■マイケル・ベタンコート 著: 「モーション・グラフィックスの歴史: アヴァンギャルドからアメリカの産業へ」三元社 (2019)
1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校、女子美術大学短大などで非常勤講師。
『ライトスタッフ』
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