ヒーローの二面性に注目したティム・バートン
そもそもバットマンの映画化権は、『スーパーマン』が日本で大ヒットしていた1979年にハリウッドに売り渡される。同作にも参加していた脚本家トム・マンキウィッツに脚色されたこの企画は長年棚上げされ、ジョー・ダンテやアイバン・ライトマンが監督の候補に挙げられるも実現することはなかった。
『スーパーマン』に続いてDCコミック原作の映画化を主導することになったスタジオ、ワーナーブラザースは、監督デビュー作『ピーウィーの大冒険』(85)でソコソコの成功を収めた新人ティム・バートンに白羽の矢を立てる。しかし、大作の『バットマン』をソコソコの成功で終わらせるワケにはいかない。そこで、バートンの監督第2作『ビートルジュース』(88)の結果を見ることになったが、これが前作を上回る成功を収めたことで、晴れてバートンは監督の座に就くことになる。
それまでバートンはコミックのファンではなかったが、この企画は彼の興味を引いた。もっとも引き付けられたのは、ブルース・ウェイン/バットマンのキャラクターだ。装備に大金を費やし、特注のコスチュームをまとい、犯罪者と戦うなんて、はたしてまともな人間のすることだろうか? そして、彼がまともではないことに、どんな理由があるのか? そこに面白さを見出したバートンは人間の誰もが持っている表と裏、すなわち二面性にスポットを当て、脚本家のサム・ハムとともに物語を組み立てていく。
『バットマン』BATMAN and all related elements are the property of DC Comics TM & (C) 1989. (C) 1989 Warner Bros. Entertainment Inc. TM & (C) 1998 DC Comics. All rights reserved.
ヒーローがまともでないなら、ありきたりのタフガイをキャスティングしてもしょうがない。そこでバートンは、『ビートルジュース』で主人公の怪物を演じたマイケル・キートンをバットマン役に抜擢する。案の定、これは原作ファンの反発を引き起こした。なぜ、マッチョな俳優ではないのか? あんな華奢な俳優にヒーローが務まるのか? しかし、それこそがバートンの狙いだ。華奢なキートンがムキムキのスーツをまとってヒーローに変身するからこそ、二面性が強調できる、というわけだ。かくして、眉間にシワを寄せがちで、ほとんど笑わないヒーローがかたち作られていく。
折しも、コミックの世界でも、単純にヒロイックなものではなく、複雑な世界観を宿したものが人気を博していた。とくに、フランク・ミラーの原作によるバットマンの新シリーズ「バットマン:ダークナイト・リターンズ」全4巻は従来の漫画のイメージを覆し、“考えさせる作品”として高評価を受け、100万部以上のベストセラーに。この現象は、バートンが自己流のダークなトーンのバットマンを作り出すうえで、追い風となる。