映画を盛り上げた、ふたつの天才的才能
バットマンと対照的に笑いっぱなしなのが、狂気のヴィラン、ジョーカーだ。バットマンとジョーカーを対決させるのは製作当初からのアイデアだが、善対悪のコンセプトはバートンによって、まともではない者同士の対決へと変容していく。実際、バートンはジョーカーを悪党とは思っていない。“道化に変身して頭がどんどんおかしくなっていく、最高に面白いキャラクターだ”と語っている。
ジョーカーに扮したジャック・ニコルソンは3度(この時点では2度)アカデミー賞を受賞している名優中の名優で、本作の出演者の中ではもっとも名が知られているスターだ。けたたましい笑い声を上げ、冗談を矢継ぎ早に発しながら、音楽に合わせて踊り、殺人&破壊を繰り広げるジョーカー。そんなキャラクターを強烈なものにしたのはニコルソンの怪演があったからこそ。時にウジウジして物事をハッキリ伝えられないブルース・ウェインの内向性とは対照的に、外交的なジョーカーは、バットマン以上に観客を魅了した。
『バットマン』(c)Photofest / Getty Images
本作にはもうひとり、ビッグな才能が関わっている。楽曲を提供したプリンスだ。彼の大ファンであるバートンは、ロンドンでの撮影時、その合間を縫ってウェンブリーアリーナでのプリンスの公演を2度見に行った。一方のプリンスは、撮影が行なわれていたパインウッド・スタジオを表敬訪問。ここでバートンは、ジョーカーが狂気のダンスを披露する場面に必要な曲の作成を依頼する。
バートンは当初、2曲ほど提供してくれればと考えていたが、多作な天才プリンスが用意したのは10曲以上。それも来日公演を終えてアメリカに帰国した後のわずか13日間で作り上げたというから驚く。結果、“パーティマン”が美術館の場面で、“トラスト”がパレードの場面で使われたほか、4曲が劇中で使われることになった。