2020.07.02
ジャームッシュ組が揃う
キャラクター作りを大事にしているジャームッシュは、俳優たちを大切にする監督で、一度、ジャームッシュ組になると、複数回、組むことも多い。
イタリアのコメディアン、ロベルト・ベニーニが『ダウン・バイ・ロー』(86)に続いて出演し、ローマの運転手役を演じる。前回は英語がうまく話せないイタリア人役で、彼のカタコト英語によって、逆に映画にオフビートなユーモアがもたらされていた。
今回は自身の母国語が使える設定ゆえ、前の映画とは違い、ベニーニはひたすら、早口でしゃべりまくり、弾丸トークのコメディアンとしての本領を発揮する。そして、車に乗せた持病持ちの聖職者に懺悔を始めるが、これが(くだらない)艶話の告白ばかり。
羊をめぐる艶話は、ウディ・アレン監督のオムニバス映画『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』(72)の羊と医者とのエピソードを思わせ、ちょっとニガ笑い(蛇足ながら、ベニーニは、後にウディ・アレンのコメディ『ローマでアモーレ』(12)にも出演)。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』(c) 1991 Locus Solus Inc.
パリの運転手役、イザック・ド・バンコレは、この映画がきっかけでジャームッシュ組となり、『リミッツ・オブ・コントロール』(09)では主人公の孤独な殺し屋を演じた。他にも『ゴースト・ドッグ』(99)や『コーヒー&シガレッツ』(03)といった監督の作品にも出演。タフなストリート感覚を持つ男優で、『ナイト・オン・ザ・プラネット』ではベアトリス・ダル扮する盲人とのやりとりを通じて、「本当に(心の)目が見えないのは誰なのか?」とのテーマが問われる。
彼の挿話ではコートジボワール出身というのが、ひとつのキーワードになるが、イザック自身もコートジボワールの出身である。
また、ニューヨーク編に出てくる元気のいいロージー・ペレーズは『デッド・ドント・ダイ』にもテレビのキャスター役で出演。彼女はジャームッシュのかつての仲間、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)が出世作となった女優。この映画の共演者、ジャンカルロ・エスポジート(乗客役)も出てくるせいか、スパイク・リー映画のイキの良さも感じさせる挿話だ。
演じる役名でクスリと笑いを誘うのがヘルシンキの挿話。アキ・カウリスマキとミカ・カウリスマキの監督作の常連男優、故・マッティ・ペロンパーが運転手役で、彼の名前はミカ。彼の車に担ぎこまれる酔っ払いの名前はアキである。
ジャームッシュ自身と作風を比較されることもあるアキ・カウリスマキは、大の酒好きとして知られるので、酔っ払い役をあえてアキにしたのではないだろうか? また、ミカの方は彼の兄である監督、ミカ・カウリスマキを意識しているのでは?
ジャームッシュ自身、アキの映画が大好きらしいが、ヒューマンな温かさのあるヘルシンキの挿話は、まるでアキの映画のワンシーンを見ているようだ。