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『スキャナー・ダークリー』を、R・リンクレイターがアニメーションで作った理由とは

A Scanner Darkly © 2006, Package Design & Supplementary Material Compilation © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All right reserved.

『スキャナー・ダークリー』を、R・リンクレイターがアニメーションで作った理由とは

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スクランブル・スーツとは



 本作で「ロトスコープ」が効力を発揮する物に「スクランブル・スーツ」がある。頭の先からつま先まで全身をスッポリ覆うツナギになっており、その表面には150万人分の外見データが細かく分割されランダムに投影される。誰かかもしれないが誰とも知られていない誰かが確実にいる。しかし明確には見えない。このスーツは「潜入捜査官」という、そんな体制側の存在の象徴である。


 ドラッグ中毒者たちは後ろめたさと罪悪感を持ちながら、しかし、より長くハイでい続けるために疑心暗鬼になるものだ。常に陰謀に怯え、誰かを疑い続ける。近くに人がいなければテレビに映る有名人(もちろん知り合いでも何でも無い)による密告を妄想し憤る。



『スキャナー・ダークリー』A Scanner Darkly ©  2006, Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2007 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All right reserved.


 『スキャナー・ダークリー』に登場する「スクランブル・スーツ」の姿はまさに、そんなドラッグ中毒者たちの恐怖を具現化した姿だと言えるだろう。


 また、誰かかもしれないが誰とも知られていない存在になってしまったアークターの象徴的な姿でもある。


 普通なら自分が自分であることを疑ったり意識することはあまり無いが、ドラッグで精神を崩壊させ虚構と現実の線引きが出来ず、自分だと思っている「アークター」を他ならぬ「アークター」自身が監視するよう命じられるに至り、自分が誰なのか見失ってしまう。


 そんな観念的で不安定な状態を、そのまま目に見える姿にしたのが「150万人分の外見データが細かく分割されランダムに投影される」スクランブル・スーツであり、それはそのままアークターの精神状態なのである。



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