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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 前編

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 前編

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困難を極めた撮影許可取得



 映画撮影によって再びケネディ暗殺事件の渦中となったダラス市では、人々に心理的な動揺が起きていた。それは周辺の建物の許諾を取る際にも影響を及ぼした。殊に暗殺の舞台となったとされる教科書倉庫ビルは使用許可を5人のコミッショナーに個別に取らねばならなかったことから、交渉が難航した。


 オズワルドが狙撃したと言われる同ビル6階は博物館になっていたため撮影に使用できない。そこで、同じ構造の7階に教科書用の段ボール3千個を積み上げて当時の雰囲気を再現することになったものの、狙撃シーンだけは6階から撮りたいとストーンは譲らなかった。この窓辺にオズワルド役のゲイリー・オールドマンを立たせて狙撃する場面を撮れば、リアリティが増すのは明らかだった。それを見越して、窓から見える木々も当時と同じ形に刈り込まれていた。


 ところが、6階の博物館には25人ほど理事がおり、彼ら全員の許諾を得なければ窓辺に立たせることは不可能だった。通常の撮影ならば、無料で貸し出されても不思議はなかったが、最終的に5万ドルがこの博物館に支払われることになった。その上、時間は厳しく制限され、撮影にはストーンと撮影スタッフ、俳優、合わせて5人しか立ち入ることができないという条件で、ようやく撮影許可が下りた。



(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 だが、さらに大きな問題が残されていた。プロダクション・デザイナーのビクター・ケンプスター、美術監督のアラン・トムキンスは教科書倉庫ビルの外観も当時の状態に戻そうとしていた。取り壊されたものは復元し、窓枠も当時の色へと戻して看板も再現するつもりだった。当初は問題なく許諾が出ていたが、やがて、5人のコミッショナーのうちの1人がビルの外観に手を入れることは許さないと言い出したために、ストーンらは3人のコミッショナーを説得して味方につけ、多数決で改装を認めさせた。一時は、ダラス以外の街で暗殺現場を再現しなければならないと弱気になったこともあったストーンだが、5か月にわたる交渉が功を奏した。


 1991年4月15日、『JFK』はダラスのディーレイ・プラザでクランクインした。地元のスタッフも含めると800人の撮影クルーが、400万ドルかけて〈1963年11月22日〉を再現した暗殺現場にやって来た。撮影を見物するダラスの人々は1万人を超えたという。


 「アクション!」という声が響くと、沿道に配置されたエキストラが拍手と嬌声を上げる。滑らかな道をゆっくりと、ケネディに扮した俳優を乗せたリムジンがやって来る。そして銃声が響く。カットの声がかかると、リムジンは来た道をバックして、またタイミングを合わせて走り出し、またも銃声と共にケネディ役は顔を伏せる。その様子をストーンはこう回想する。


「交通を遮断して、何度も大統領を撃ったよ。(略)心霊現象みたいだったな。さまざまなポジションから、いろんなスタイルで撮ったよ。どんどん撮っていった」(『オリバー・ストーン』)


 2週間にわたるディーレイ・プラザの撮影は、通常の映画撮影よりも面倒な手順で行われた。当時は、35mmフィルムで撮られることが主流だったが、映像が鮮明すぎるため、荒い粒子でニュースフィルムにも使われる16mmフィルムも多用した。さらに当時の見物人たちが撮影したのと同じように、8mmフィルムも混在させることで、アーカイブ映像と新たに撮影したものを自然に馴染ませようとした。映像に詳しくなければ、どこまでが本物で、どこから新撮か区別がつかないだろう。しかし、やがてこの手法が『JFK』の大きな問題点としてクローズアップされることになる。


 こうして順調に撮影が始まったかに思えたが、悪夢のような歴史の一瞬を精巧に再現して繰り返し撮る行為は神への冒涜だったのだろうか。間もなく、撮影現場を凍りつかせる事件が起きた。



中編はこちら



【主な参考文献 ※本記事 前編・中編・後編 含む】

『JFK ケネディ暗殺の真相を迫って』(オリバー・ストーン、ザカリー・スクラ―他・著、中俣真知子、袴塚紀子・訳/キネマ旬報社)、『オリバー・ストーン 映画を爆弾に変えた男』(ジェームズ・リオーダン著、遠藤利国・訳/小学館)、『映画に必要なことはすべてベトナムの戦場で学んだ』(フレドリカ・ホーストマン・著、家田荘子・訳/メディアファクトリー)、『JFK ケネディ暗殺犯を追え』(ジム・ギャリソン・著、岩瀬孝雄・訳/ハヤカワ文庫)、『映画作家は語る』(デヴィッド・ブレスキン・著、柳下毅一郎・訳/大栄出版)、『JFK暗殺の真実 ケネディ解剖医、28年間の沈黙を破る!』(文藝春秋)、『映像の帝国 アメリカ・テレビ現代史』(サイマル出版会)、『キネマ旬報』『スクリーン』『シネ・フロント』『週刊文春』『週刊読売』『時の法令』『Asahi journal』『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ニューヨーク・タイムズ』『JFK』劇場パンフレット https://www.nytimes.com/  https://www.washingtonpost.com/



文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



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