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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 前編

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 前編

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問題作を映画会社へ売り込むには?



 『7月4日に生まれて』を完成させたオリバー・ストーンは、休む間もなく次回作『ドアーズ』(91)の製作準備に入ったが、同時に次々回作を『JFK』にすると正式に決め、資金調達も始めた。1本の映画の製作中から次回作、次々回作の準備も並行して進めておかなければ、2、3年はフィルモグラフィに空白が生まれてしまう。この時期のストーンが年1本のペースで撮ることが出来ていたのは、こうしたワーカホリックぶりを維持していたからである。


 1989年12月、ストーンは『JFK』の企画を公表し、映画会社と交渉に入った。『7月4日に生まれて』で組んだユニバーサルとは、エンディングの撮り直しや、音楽予算問題、公開日の前倒しに関するトラブルなどでしこりが残り、もう続けて仕事をするつもりはなかった。


 そこで次のパートナーとして選んだ映画会社が、ワーナー・ブラザースだった。ちょうどワーナーも、大富豪ハワード・ヒューズを主人公にした映画をストーンにオファーしようとしていたが、ストーンはそれよりこっちはどうだと『JFK』の企画をプレゼンした。そして最後に原作になる本と関連書の映画化権は抑えてあると付け加えた。



『JFK』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 ストーンの話す内容に興奮したのが、当時ワーナーのCEOだったテリー・セメルである。元々、彼は『大統領の陰謀』(76)や『キリング・フィールド』(84)など、物議を醸す社会派映画にもゴーサインを出してきた。ストーンが最初にワーナーと交渉しようと決めたのも、メジャー会社でこうした危ない題材に取り組む意欲を持っていることが分かっていたからだ。セメルは製作費2,000万ドルでどうかと提案し、ストーンは了承した。こうして、いよいよ脚本作りに入っていくことになった。


 すでにストーンは調査チームを作り、資料や証言を集めながら自ら取材にも赴いており、脚本執筆に必要なリサーチはあらかた終えていた。しかし、問題があった。これがジム・ギャリソンの一代記を映画にするのなら、一直線に物語が進むだけに、脚本もそう複雑にはならなかっただろう。この映画は、ギャリソンを媒介にした、ケネディ暗殺事件にまつわる情報を散りばめたミステリー映画なのである。


 したがって後年明らかになった情報を入れ込むこともあれば、複数の実在の人物を架空のキャラクター1人に合成することもあった。劇中に登場するミスターXなるCIAの陰謀を暴露する人物は、実際にギャリソンが会った数人の証人を組み合わせたものだ。さらにこれらとは別にリー・ハーヴェイ・オズワルドのエピソードも描こうというのだから、時間も場所も異なるバラバラの断片を全編にわたって少しずつ提示しながら、全てが明らかになるクライマックスの法廷になだれこむ構成にしなければならない。


 脚本はあっという間に、3時間を超える長さに膨れ上がった。これをそのまま撮影すれば4時間の映画になるだろう。製作費も2,000万ドルでは収まらず、4,000万ドルは見込まれた。そこでストーンは脚本を推敲する作業の中で、ギャリソン個人の描写を薄めた。それは、公開後に最も批判を集めた部分でもあったが、人間的に破綻した部分をカットし、非の打ち所がないヒーローにして暗殺事件のナビゲートを行わせることで、複雑な人物関係や膨大な情報が整理され、観客が受け入れやすい作品になったことは間違いない。




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