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『キル・ビル Vol.1』タランティーノが愛したジャンル映画:カンフー映画編

(c)Photofest / Getty Images

『キル・ビル Vol.1』タランティーノが愛したジャンル映画:カンフー映画編

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唯一無二のカンフー・スター、ジミー・ウォング



 栗山千明が演じた「ゴーゴー夕張」の鉄球と、それが放たれる時の「ズキューン!」という効果音。そして、ドイツのバンド「ノイ!」の曲「Super16」の使用は、ジミー・ウォングが監督、脚本、製作、製作総指揮、そしてもちろん主演も勤めた『片腕カンフー対空とぶギロチン』(75)からの引用だ。


 ジミーは武侠映画などで主演俳優として活躍し、日本の「座頭市」から着想を得た、ハンディキャップのある剣士を主人公にした『片腕必殺剣』(67)のヒットにより大スターとなる。ただし、当時彼が所属していた映画製作会社ショウ・ブラザースは薄給で知られており、どれだけ作品がヒットしても俳優は月給制でギャラは変わらなかった。その事に業を煮やしたジミーは自分で監督も手がけると売り込み『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』(70)を監督、主演し、大ヒットを記録する。この作品は武器を使わず素手で戦う「拳士」を主人公にした最初の映画で、つまり映画史上初のカンフー映画として知られている。ジミーはブルース・リーが登場するまで「天皇巨星」とまで呼ばれる唯一無二のカンフー・スターとなった。



『キル・ビル Vol.1』(c)Photofest / Getty Images


 ジミーはブルース・リーとは違い、実際にカンフーを習得しているようには見えず、構える姿も体幹はフラつき、動きのキレもあまり無い。その戦いぶりは、ともすればフザけているようにも見えてしまうチャーミングなものだ。しかし、それでも彼が捨て置けない存在であるのは、彼が作った作品群の、あまりに豊かで独創的な娯楽性によるものだ。


 中でも『片腕カンフー対空とぶギロチン』は、ジミーの特性が遺憾無く発揮された代表作である。劇中で開催される異種格闘技トーナメントや、インド人格闘家の自在に伸びる腕は、格闘ゲーム「ストリート・ファイター」シリーズの人気キャラ「ダルシム」の元ネタである。また、暗殺武器「空飛ぶギロチン」を操る屈強な盲目の僧侶に対し、片腕のジミーがありとあらゆる(卑劣な)手段で対抗する様子は、主人公にしておくには勿体無い魅力に溢れている。


 ちなみにショウ・ブラザースの薄給は、多くの若いスタッフやエキストラ俳優などにも及び、食うに困った彼らは借金取り立てや地上げなど「黒い」仕事に手を染めざるをえなかった。そして、ジミーは「その分野」でも大いに活躍したそうである。




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