2021.04.07
フューチャリスト・デザイナー、シド・ミード
『ショート・サーキット』の主人公「ナンバー5」は、金属製のロボットである。2つの可動式のキャタピラで重心の低い足回りに、細いボディと2本のマニピュレーター。長い首に2つのメインカメラと日除けのフラップ、肩にはレーザー銃が付いている。修飾を削ぎ落としながら、豊かな表情とボディアクションを実現したこのデザインは、シド・ミードの手によるものだ。
インダストリアル・デザイナーとしてキャリアをスタートさせたシド・ミードは、フォードやボルボなどでコンセプト・カーのデザインやモーターショー向けのイラストなどを手がけていたが、その先鋭さを買われ『ブレードランナー』(82)の空飛ぶ車「スピナー」のデザインを依頼される。映画が公開されるや、仕上がりの美しさが話題となり、映画業界内で引っ張りだことなる。以降『エイリアン2』(86)に出てくるマシンの初期デザインや『トロン』(82)のライトサイクルなど、今もなお「カッコいいデザイン」として取り沙汰される作品を残した。
『ショート・サーキット』(c)Photofest / Getty Images
その彼がデザインを担当したナンバー5は、戦闘ロボットでありながら、親しみもある、作品に沿った優れたものだ。特に「顔」の造形は秀逸で、2つのカメラとフラップが、怒ったり笑ったりといった「目の表情」を可能にしている。この顔のデザインはピクサー作品『ウォーリー』(08)の主人公に取り入れられ、シド・ミードのデザインが究極的なものである証左となっている。このデザインこそが『ショート・サーキット』を、他の数多あるパクリ『E.T.』作品群と一線を画している所以だ。
1986年に公開された『ショート・サーキット』が描いた「近未来」の技術は、今となってはすでに追い越された感は否めない。しかし、その中においても追い越されない、優れたデザインのナンバー5。加えて、ピュアな存在と心を通わせる普遍的な心地よさ。色褪せない過激でプリミティブな笑い。そして、いつまでも解明されない生命の神秘と自我の不思議。
これら重く真面目になりがちな素材を、フンワリゆるやかにまとめたのが『ショート・サーキット』最大の魅力である。
文: 侍功夫
本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。
(c)Photofest / Getty Images