『アベンジャーズ』からの伏線回収が遂に!
“準備”を終えたところで、いよいよ『ブラック・ウィドウ』の魅力を紹介していこう。まず、本作が非常に巧みなのは劇中におけるアベンジャーズの扱い方だ。物語を「アベンジャーズが内部分裂した」時期に設定することで、ナターシャが孤立無援の状態になる必然性が生まれている。
ソコヴィア協定に違反したかどでアメリカ国務長官のサディアス・ロス(ウィリアム・ハート)に追われ“お尋ね者”となったナターシャは、他のアベンジャーズのメンバーに助けを求めることができず、逃亡生活の中で各国を転々とする羽目に。要は「ナターシャが自分一人で何とかするしかない」シチュエーションを、見事に作り出しているのだ。この辺りはエレーナや便利屋のメイソン(O・T・ファグベンル)がナターシャを「アベンジャーズは離婚調停中」などと揶揄するシーンで補強されている。
同時に、この状況はナターシャにとって「家族」を見つめ直す機会にもなる。天涯孤独だった彼女にとって、アベンジャーズは家族と呼べる存在だった。しかしその絆が揺らいだタイミングで、幼少期に共に過ごした家族(実は、両親はロシアの工作員で、妹は孤児。全員血が繋がっていない)と再会することになる。ただ、幼少期のある“事件”のせいで、関係は最悪。ナターシャと“家族”が再び絆を築けるかが、作品の核となる。つまり、ナターシャはアベンジャーズと育ての親、ふたつの「疑似家族」と向き合うわけだ。
『ブラック・ウィドウ』(c)Marvel Studios 2021
そんななか、自身を暗殺者に仕立て上げた「レッド・ルーム」のボス、ドレイコフ(レイ・ウィンストン)と対峙することになり、ナターシャは決別したはずの“過去”と再び格闘する。実はこのストーリー、『アベンジャーズ』時点で軽く示唆されているというから驚きだ。
ナターシャ「帳簿から赤字をきれいに消したいだけ」
ロキ「できるか? 消すには赤字が大きすぎないか? ドレイコフの娘、サンパウロ、病院の火災……」
(『アベンジャーズ』より)
『アベンジャーズ』時点では謎に包まれていたこのセリフは、ロキ(トム・ヒドルストン)がホークアイ/クリント・バートン(ジェレミー・レナー)から聞き出したもの。ホークアイはかつてナターシャと対決した追跡者だったが、S.H.I.E.L.D.加入のきっかけを作った恩人でもある(加入の最終試験が、ドレイコフの暗殺だった)。
この部分を頭に入れてから『ブラック・ウィドウ』を観ると、伏線が見事に回収されており、MCUの整合性の見事さにうならされずにはいられない。