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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』MCUの新天地、中華武侠ファンタジーが示す「ふたつの原点回帰」

©Marvel Studios 2021

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』MCUの新天地、中華武侠ファンタジーが示す「ふたつの原点回帰」

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より速く、より美しく、より楽しいアクションのために



 そもそもシャン・チーが登場したきっかけは、70年代当時、アメリカでブルース・リー主演『燃えよドラゴン』(73)やドラマ「燃えよ!カンフー」(72~75)が人気を博し、ひとつのブームとなっていたことだった。マーベルはアジア系ヒーローの可能性を模索し、英国人作家サックス・ローマーが生んだ中国人のキャラクター、フー・マンチュー博士の権利を獲得。その後、シャン・チーはフー・マンチューの息子として、“マスター・オブ・カンフー”の冠を受けて誕生することになった。


 これまでのMCUと同じく、キャラクターの設定はコミックに忠実に、しかし現代の実写映画にふさわしい調整が施されている。シャン・チーの場合、人種のステレオタイプを回避しつつも、マスター・オブ・カンフーとしての性質はそのまま残されることになった。映画の前半は、シャン・チーやシュー・ウェンウー、妹のシャーリン(メンガー・チャン)、そしてテン・リングスの刺客であるデス・ディーラーが繰り広げる肉弾戦が見どころとなる。

 

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』©Marvel Studios 2021


 監督・脚本のデスティン・ダニエル・クレットンは、チャン・イーモウ監督『HERO』(02)『LOVERS』(04)や、アン・リー監督『グリーン・デスティニー』(00)、そしてジャッキー・チェン映画を参照しながら、時に速く、時に美しい武侠アクションを、または目にもとまらぬカンフー・バトルを撮り、さらには香港映画でおなじみ“竹の足場”さえもMCUの世界観に組み込んだ。ウェンウーが操る腕輪テン・リングスのモデルは、『少林寺三十六房』(78)に登場する鉄の腕輪。コミックでは指輪の設定だが、カンフー映画の歴史に敬意を表する形での改変が行われている。


 肉体を駆使した激しいアクションのかたわら、ハリウッド大作らしいカーチェイスなども盛り込まれ、本作のアクションはバリエーションと見応えの両面でMCU随一だ。主にスタント・コーディネーターを務めたのは、『ラッシュアワー』『シャンハイ・ヌーン』シリーズでジャッキー・チェンを支えたブラッド・アラン。その功績は作品を見れば明らかで、かつてジャッキーが演じたようなスタイリッシュで楽しいアクションのDNAは本作にきちんと継承されている(それだけに、本作の完成後にブラッドがこの世を去ったことが惜しまれてならない)。


 また、シャン・チー役のシム・リウによる鮮やかなカンフーはもちろん、アクションを彩る、“相棒”ケイティ役のオークワフィナも見逃せない。かつて『ラッシュアワー』ではクリス・タッカーが、『シャンハイ・ヌーン』ではオーウェン・ウィルソンがジャッキーの相棒を務めたが、オークワフィナは二人に負けないユーモアセンスを発揮し、活躍ぶりもコメディリリーフぶりも印象的だ。ハリウッド発・アジア系アクション映画の歴史を鑑みれば、キャスティング面の大きな進歩を感じることもできる。





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