映画よりもカオスだった撮影現場
カオスという形容が似合う『ガンモ』だが、撮影現場はさらに混沌を極めていた。ハーモニーは気に入った一軒の家は、途方もない数のゴキブリと一緒に住人の家族が暮らしていた。劇中で、壁にかかった額縁を動かすたびに、その裏に隠れていた大量のゴキブリが動き出す衝撃的なシーンがあるが、実際には撮影より前に大半のゴキブリが逃げてしまった。ジェイコブ・レイノルズは「『ハムナプトラ／失われた砂漠の都』（99）の昆虫の大群みたいだった」と語っている。
12歳でソロモン役を演じたジェイコブは、有名なバスルームのシーンで汚水を溜めたバスタブに16時間も入れられていた。撮影監督のジャン＝イヴ・エスコフィエもバスタブに入ってカメラを回して何かを叫びまくっていたが、フランス語だったのでジェイコブにはさっぱり意味がわからなかったらしい。カットによってソロモンの手が極端にふやけているのは16時間もバスタブにいたせいだ。
『ガンモ』(c)Photofest / Getty Images
撮影する建物があまりにも不潔だったため、スタッフが家に入ることを拒否し、二日間撮影をボイコットしたこともあった。結局、防護服を支給することで折り合いがついたが、ハーモニーとエスコフィエは彼らを弱虫と見なし、嫌がらせのように軽装で撮影を続けた。
酒盛りをする大人たちが腕相撲に興じる長いシークエンスでは、刑務所から釈放されたばかりという男も参加していた。彼らに素のままの姿でいてほしいと考えたハーモニーとエスコフィエは、彼らをキッチンに閉じ込めて、好きに振る舞ってもらうことに決めた。エスコフィエだけがカメラを担いでキッチンに入り、外にいたハーモニーらはモニターもなく、何が撮れているのか一切わかっていなかった。
結果として、やたらと粗暴なテンションと可笑しみがスレスレのところで拮抗する名シーンが生まれたのだから、ハーモニーがお膳立てした偶発性の凄さに頭が下がる。一方で、同じシーンで男が椅子とレスリングするヘンテコな後半戦は、ハーモニーが「椅子レスリングの達人」と絶賛する友人のスケートボーダー、マーク・ゴンザレスを連れてきて実現したものだ。
公式SNSをフォロー
