出演者の多くは貧困地域に暮らす住民たち
出演者のほとんどは、ハーモニーが思春期を過ごし、ロケ地にもなったナッシュビルの友人知人か、街角で見つけてきた地元の素人たち。ハーモニーはナッシュビル西部の最貧困地域で道行く人に「僕の映画に出ない?」と声をかけ、気になる家を見つけると撮影させてほしいと交渉し、家の住人はホテルに宿泊させ、インテリアはそのまま美術として使った。床に落ちていたスクランブルエッグを誰かが片付けようとすると「そのままにするんだ!」と止めたという。
4歳から子役として活躍していたソロモン役のジェイコブ・レイノルズや、当時のハーモニーの恋人で『KIDS』にも主演していたクロエ・セヴィニー(『ガンモ』では衣装デザインも担当した)、ハーモニーの友人でプロスケーターのマーク・ゴンザレスらは数少ない例外だった。タムラー役のニック・サットンは、ハーモニーがテレビのトークショーで目を留めた。サットンはドラッグにハマった十代の少年として番組に出演しており、その佇まいに惚れ込んだハーモニーが映画に出演させるために探し出した。
『ガンモ』(c)Photofest / Getty Images
ソロモンの母親を演じたリンダ・マンズ(昔はマンツと表記されていた)で、テレンス・マリック監督の『天国の日々』(78)と、デニス・ホッパー監督の『アウト・オブ・ブルー』(80)という二本の作品に出演していた伝説的存在。彼女は90年代には完全に引退状態だったが、ハーモニーのたっての願いで12年ぶりに復帰を決意。ソロモンに奇妙な形で愛情を注ぐ2つのシーンで、強烈な存在感を発揮している。
いずれの出演者も、ハーモニーは演技力ではなく、顔と個性を基準に選んだと語っている。確かにすべてのキャラクターが、物語上の要請に応えるためでも、映画的なカタルシスに奉仕するためでもなく、ただ「この世のどこかに存在している誰か」として映像の中に存在している。
彼らに共通しているのは“倦怠と貧困”だが、社会の暗部にスポットを当てて問題意識を喚起しようとするような視点は感じない。ハーモニー自身も政治的、人道的なメッセージは一切ないと明言している。多くの映画やエンターテインメントが備えている虚飾を剥ぎ取ることが『ガンモ』の最大のコンセプトであり、その結果、えもいわれぬ詩情とアメリカのリアルを浮かび上がらせる。その狙いが的中していることは、本作を気に入ろうが気にいるまいが認めないわけにはいかないのではないだろうか。