ヤバいことをやればその場で1,000ドル支給
『ガンモ』は素人俳優によるアドリブを多用した作品だと思われがちだが、大半のシーンが事前に脚本に描かれていたことは、ハーモニーやタムラー役のニック・サットンが証言している。ただしハーモニーは「脚本はあっても、出演者を搾取する気はないし、嫌がることを強制はしなかった」と語っているのだが、現場にいた役者たちにとっては勝手が違ったらしい。
サットンはドラッグ中毒だった自分から麻薬を遠ざけてくれていたハーモニー(とクロエ・セヴィニー)に感謝しつつも、タムラーの役柄も、やるべき演技もハーモニーに厳密に決められていて、『ガンモ』の出演者はハーモニーが好きなように形成できる泥人形のようなものだったと語っている。
また、イカれた映像を欲しがったハーモニーは、撮影現場で1,000ドルのボーナスを現金支給していた。サットンは1,000ドル欲しさにハーモニーが雑貨屋で見つけた羊の脳みそを食べてみせた。ジェイコブ・レイノルズも、ハーモニーに乞われてネズミが這い回る穴に指を突っ込んだりして、出演料以外に5,000ドルは稼いだと告白している。ただしハーモニーがタバコの吸い殻が入った瓶の水を飲めと言いだした時は、病院に担ぎ込まれて撮影が止まるからとスタッフが思いとどまらせたという。さすがに作為的に過ぎると思ったのか、これらのシーンはすべて本編からはカットされてしまったが。
ただし、役者にあらかじめ用意した演技はさせないというハーモニーの演出方針は、自らが出演した場面でも適用された。ハーモニーはおどおどした同性愛者の少年を演じ、小人症の黒人男性とカウチに座ってぎこちない会話をする。ハーモニーはあえてビールを飲みまくって、泥酔して撮影に臨んだ。そして酔っ払っては監督ができなくなるからと、最終日の最後の最後に撮った。途中で自分のアタマにビールをかけるのも、酔った上でのアドリブだという。
ハーモニーによると、クランクアップと同時に酔いつぶれて意識をなくし、目覚めたら妹がいたので窓から投げ飛ばし、気がつけば誰かのポケットナイフで刺されていたという。これも現実に起きたことなのか、泥酔して見た幻想なのか、イメージ戦略として吹いたホラなのかはわからない。