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『ガンモ』嫌悪と絶賛、影と光、ハーモニー・コリン衝撃のデビュー作

(c)Photofest / Getty Images

『ガンモ』嫌悪と絶賛、影と光、ハーモニー・コリン衝撃のデビュー作

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鬼才監督アラン・クラークの衝撃作『Christine』とは?



 ハーモニーがいかにリアリズムを標榜しても、『ガンモ』はまごうことなくフィクション作品だ。ハーモニーが目指した「ありのまま」は、演出的意図によって作られたものだ。ただ、その「ありのまま」を切り取るスタイルに関して、ハーモニーは確固たる独自のビジョンを持っていた。23歳の初監督作品であることを思えば恐るべきことであり、『ガンモ』が世間の度肝を抜いた所以でもある。


 ただし、ガス・ヴァン・サントが「完全にオリジナル」と評したとしても、またいかにハーモニーが「あらゆる引用を避けた」と言及していても、膨大な数の映画を見てきたハーモニーはさまざまな先達から影響を受けている。バニーボーイが指に字を書いているのを見れば、映画ファンなら前述の『狩人の夜』を想起せずにはいられないだろう。


 実際ハーモニーは、映画づくりを志す中でインスピレーションの源泉になった監督の名前を幾人も挙げている。とりわけことあるごとに尊敬の念を語っていたのが、1990年に54歳でこの世を去った英国人アラン・クラークが監督した52分のテレビ作品『Christine(原題)』(87)だ。


 アラン・クラークの名前は日本のみならず、海外でもあまり知られていない。日本で劇場公開された映画は『SCUM/スカム』(79)と『ビリー・ザ・ハスラー』(85)の二本しかなく、『SCUM/スカム』は2014年になってようやく公開された。むしろ映画よりもテレビドラマがメインフィールドで、代表作の一本『Made In Britain(原題)』(82)ではスキンヘッドの差別主義者役でティム・ロスがデビューし、遺作となった短編『Elephant』(89)はガス・ヴァン・サントのカンヌ映画祭パルムドール受賞作『エレファント』(03)に大きな影響を与えている。


 『Christine』は、ステディカムを使った長回しの移動ショットというクラークのトレードマークを駆使した作品で、『ガンモ』でタムラーとソロモンが自転車で走る場面の移動撮影などに視覚的な共通点を見出すことはたやすい。しかし『Christine』はビジュアル的な面以上に、映画哲学的な部分でハーモニーに強烈な影響を与えた作品なのだ。


 主人公はクリスティーンという名のローティーンと思しき少女で、どこを切り取っても印象が変わらない平凡な郊外の町に住んでいる。一見して不良でも優等生でもなさそうだが、いつも持ち歩いているビニール袋にはクッキーの空き缶が入っており、その中にはヘロインと注射器が入っている。


 クリスティーンは友だちを訪ね、他愛のない雑談を交わしながら注射器を取り出し、友だちと一緒にヘロインを打つ。ほぼそのルーティーンの繰り返しで作品が構成されており、われわれは「ヘロインのある日常」を目の当たりにして、ただただ居心地の悪さを感じることしかできなくなる。しかしラストでかすかな涙を流すクリスティーンを見ることで初めて、彼女の内面がほんの少しだけ垣間見えたような錯覚を得るのである。


 できる限り作為や説明を排除し、「ありのまま」を提示することで観客の心を動揺させる。これはまさに『ガンモ』でハーモニーが心がけたことだった。ハーモニーはクラークをNYで行われた特集上映で知ったが、観客はわずかに10人ほどだったという。しかしクラークの作家性に魅了され、自分なりに咀嚼し、地元ナッシュビルのリアルと掛け合わせることで生まれたのが『ガンモ』だと言えるだろう。





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