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『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス監督が導いた、恋人たちの刻印

(c)Photofest / Getty Images

『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス監督が導いた、恋人たちの刻印

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六年という架空の歳月



 16ミリフィルムでノスタルジックに撮られた恋人たちの出会いが放つ多幸感と、デジタルカメラが閉所的に捉えた結婚生活における疲弊。それぞれの時期が放つ生々しい画面の色合いに驚かされる。恋人たちが結婚に至るまでの幸せな前半を撮影した後、一か月の撮影休暇を経てから、後半の破綻した結婚生活が撮られたという。この一か月の休暇の間に、監督、メインキャストの二人と娘役のフェイス・ウラディカは、実際に一つ屋根の下で疑似家族を形成し共同生活を送っていた。


 「彼らの娘フランキー(フェイス・ウラディカ)と一緒に、一か月間家を借りました。私たちはその家に住んでいました。料理を作り、皿を洗い、お互いにプレゼントを贈り合い、誕生日のパーティーをしたり、釣りに行ったり、犬小屋に絵を描いたり、ジェーン・フォンダのワークアウトもやりました」(デレク・シアンフランス)*3



『ブルーバレンタイン』(c)Photofest / Getty Images


 この共同生活の間には、皿洗いをしたりゴミ出しをしたり食費を計算したりするような実際の生活を送る以外にも、ホームムービーを撮影したり、ライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズの間で、どちらが先に役作りのために太れるか賭けをしたりしていたそうだ。六年という微妙な歳月に起こる精神的肉体的な変化を演じるのは、おそらく老後を演じることより難しい。六年という「架空」の歳月に真実味を持たせるため、監督、キャストは一か月の実験期間を経ていく。そしてそれは、前半に撮った恋人たちのかけがえのない時間を容赦なく壊していくための作業でもあった。


 まっすぐで誠実な愛を表明していたディーンや、キラキラしていたシンディの瞳に、生活による疲れが浸食し始める。同じく、彼らの過ごした部屋の家具、食器用洗剤に至るまで、全ての小道具に生活の記憶が宿っていく。一か月後に撮影が開始されたとき、既にこの家族には歴史があった。こうした実際の生活に基づいた映画作りや、即興性を含めたキャストへの信頼に、デレク・シアンフランスが多大な影響を受けたというジョン・カサヴェテスの影を感じずにはいられない。




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