「You and Me」
『ブルーバレンタイン』では、ディーンとシンディの恋物語に捧げられたラブソングがある。ペニー・アンド・ザ・クォーターズの「You and Me」。ライアン・ゴズリングによって持ち込まれた、この美しいオールディーズ調のソウルミュージックは、遺品整理の中から発見された未発表のデモ音源。この楽曲にはポップミュージックとしての歴史がないのだ。ディーンはシンディにこう説明する。「俺と君だけの歌。みんなと同じありきたりの曲じゃつまらないだろ?」。ディーンの台詞は誇張ではない。本当に二人だけのラブソングなのだ。
『ブルーバレンタイン』は「恋に落ちるとはどういうことか?」を考えさせてくれる。私たちの恋愛のチャンスがそうであるように、二度とやってこないかもしれないドキュメントを捉えることに、この作品は賭けている。そのための壮大な「実験の装置」だ。言い換えれば、壮大な「ロマンの装置」とも言えるだろう。
本作は「子供がいるとはどういうことか?」も同じく考えさせてくれる。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』もそうだが、ライアン・ゴズリングが子供を肩に抱える姿には、二度と起こらないような尊さが宿っている。
一か月の共同生活を終えたライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズは、二人の結婚式の写真を燃やすよう監督から指示されたという。それは結婚生活の破綻を撮影していくための「役作り」の一環でもあった。しかし燃やされた二人の写真は、キスをする二人の顔をハート型で囲むような形で燃え残ったのだという。このエピソードは『ブルーバレンタイン』のラストと呼応している。たとえそれが別離へ向かう悲しいフレームだとしても、恋人たちが懸命に生きてきた「写真」は刻印として残り続けるのだ。
*1 Interview Magazine「Talk Therapy: Ryan Gosling and Michelle Williams Open Up About Blue Valentine」
*2 Interview Magazine「Derek Cianfrance」
*3 Hollywood Chicago「Interview: ‘Blue Valentine’ Director Derek Cianfrance on Intensely Personal 12-Year Journey」
映画批評。ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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