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『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス監督が導いた、恋人たちの刻印

(c)Photofest / Getty Images

『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス監督が導いた、恋人たちの刻印

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こわれゆく女



 デレク・シアンフランスは大学時代、実験映画の巨匠スタン・ブラッケージによる映画史の講義を受けていたという。セルゲイ・エイゼンシュテインの『イワン雷帝』(44)を敢えてピンボケで上映するようなアクロバティックな講義は、映画に対する考え方に多大な影響を与えたという。ピンボケのスクリーン投射された光と影(だけ)の衝突。そして同じ講義で上映されたジョン・カサヴェテスの『フェイシズ』(68)。デレク・シアンフランスによるジョン・カサヴェテスの映画へのとめどないリスペクトは、ここから始まったという。


 「カサヴェテスの影響は、この映画の全体に及んでいます。私は彼の映画を数え切れないほど観ました。彼の映画で最も好きなのは、映画が多様な方向に変化することで、常に生きているように感じられるところです。たとえば『こわれゆく女』を初めて観たときは、頭のおかしな女性の映画だと思ったのですが、昨年二十五回目に観たとき、彼女は映画全体の中で唯一まともな人間だったことに気づきました。『ブルーバレンタイン』では、それを再現し、登場人物をそれぞれの解釈で見てもらえるようにしました。この映画では人々はどちらかの味方につくものなのです」(デレク・シアンフランス)*2


『こわれゆく女』予告


 デレク・シアンフランスは『ブルーバレンタイン』の次に撮った傑作『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(12)でもスパゲッティのシーンを用意している。それは、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』(74)で、妻(ジーナ・ローランズ)が夫(ピーター・フォーク)の仕事仲間にスパゲッティを振る舞うシーンへのオマージュだ。そして同時に、たった一つのシーンに表出させた「複数の感情の乱反射」へのオマージュでもある。『こわれゆく女』は、恐るべきスピードで各人の感情が発露され、それはカオスを形成しやがて変容していく。本作の飛び交う感情のパワー、失敗を恐れない演技のあり方に、おそらくデレク・シアンフランスは魅せられている。


 その姿勢は、六歳の頃からテープレコーダーで家族の会話を録音していたデレク・シアンフランスの人生と重なる。十三歳でビデオカメラを手にしたデレク・シアンフランスは、再び家族の生活を記録する。ある日、ビデオカメラが回っている間だけ完璧になろうと演じている家族に気づいたことから、リアルな家族の生活を記録することを仕事にしようと思い立ったのだという。『ブルーバレンタイン』の二人のキャストに課された、脚本に書かれた台詞の放棄や、失敗する演技への積極的な寛容の背景には、ジョン・カサヴェテスの影響だけでなく、デレク・シアンフランスのこうした人生の歩みが滲んでいる。




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