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『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

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ダンテズ・ピークの造形



 デジタル・ドメインのVFXスーパーバイザーは、パトリック・マクラングが務めた。彼は、キャメロン監督の『エイリアン2』(86)や『アビス』(89)でミニチュアのスーパーバイザーを担当しており、デジタル・ドメインは創立時点から参加している。実はキャメロンとは無名時代からの仲間で、共にロジャー・コーマンのニュー・ワールド・エフェクツ社で『宇宙の7人』(80)( https://www.youtube.com/watch?v=gWmaUmNgWqM )などを手掛けている。


 マクラングは、リアルなライティングのために、オープンセットでの自然光を選択した。そのためには、巨大なミニチュアの建造と撮影が可能なスペースが求められる。そこでVFXプロデューサーのトーマス・ランドマーが、ヴァンナイス空港の90年まで使用されていた空軍州兵基地(*4)を借りることにした。そして滑走路全体と2つの広大な格納庫、ビル8棟の使用許可を得て、400~600人のスタッフがここで働いた。



『ダンテズ・ピーク』(c)Photofest / Getty Images


 この映画の、言わば主役でもある火山の「ダンテズ・ピーク」は、高さ9m、底部の直径34mという巨大なミニチュアで、スタイロフォーム(硬質発泡スチロール)のブロックを積み上げて造形された。その形状については(尖り過ぎを批判する人もいるが)、実際に山体崩壊を起こす前のセント・ヘレンズ山がモデルになっている。ただし標高は、元のセント・ヘレンズ山の2,950mから、より威圧感を与えるように約4,300mあるという設定にされた。


 山頂部分は複数のテイクに備えて交換可能で、ミニチュアの底には多数の車輪(台車のキャスターのようなもの)が取り付けられており、格納庫から滑走路への出し入れを容易にしていた。噴煙は、スモークとパウダー状のドリラーズ・マッド(*5)を混ぜたものをエアキャノンで噴き上げ、デジタルコンポジットの際、グレーにカラーコレクションされた。


*4 この施設は、『サイレント・ランニング』(72)や『トゥルー・ライズ』、『エグゼクティブ・デシジョン』(96)など、多くの映画に使用されている。


*5 石油掘削のドリラーズ法に使用される泥水の素材。火山灰由来のベントナイトや、石炭火力発電所の灰であるフライアッシュなどが使用される。本作では、おそらく後者が用いられたと考えられる。


フリーウェイの崩壊



 町の幹線道路であるフリーウェイの高架が崩壊する場面は、州間高速道路90号線に本物の車を渋滞させ、合成の境界線にグリーンのパネルを立てて撮影された。崩れていく遠景の道路と車両は、デジタル・ドメインのスタジオに作られた1/4スケールのミニチュアで、グラント・マッキューン・デザイン社(*6)が造形している。この場面もマクラングのスーパーバイズにより、グリーンバックで高速度撮影され、スモークや炎の素材と共に本物の風景にコンポジットされた。


 この切り替えしショットでは、アーボガストとワシントンが指揮を取り、実物大のランプ(傾斜路)のセットを、実際の道路と繋がって見える位置に設置した。ここに、10~12台ほどのスタント用車両が載せられ、傾斜路の支えを火薬で破壊し、合成なしでリアルなシーンを作り出している。この2種類の映像は、巧みに編集されることで、一体感ある場面に仕上がっている。


*6 同社代表だったグラント・マッキューンは、ジョン・ダイクストラ率いるロサンゼルスの初代ILMにおいて、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)のミニチュア・ユニットに参加していた。その後、ジョージ・ルーカスがILMをサンフランシスコに移すと、ロサンゼルスに残ったダイクストラのチームは、スタジオの名称をアポジーに変え、マッキューンもここで『スター・トレック』(79)や『ファイヤーフォックス』(82)などのミニチュアを手掛けている(この時、彼を手伝っていたのがマクラングである)。92年にアポジーが倒産すると、マッキューンはスタジオと設備すべてを買い取り、グラント・マッキューン・デザイン社として再スタートを切る。だがマッキューンは、10年に膵臓がんで亡くなり、事業は妻のキャサリンが引き継いだが、16年にスタジオは閉鎖された。



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