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『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

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泥流シーン



 地質調査所のスタッフは、ギリギリまでハリーたちの帰還を待っていた。だが限界を感じ、州兵たちが運転するハンヴィーに乗って避難を開始する。ハリーの上司であるポール・ドレイファス(チャールズ・ハラハン)も、調査所のバンでその車列を追う。そのころ山頂部の積雪が融解し、ダムを決壊させてラハール(火山泥流)が発生する。そして下山中、運悪く鉄橋を渡っていた州兵たちの車列を襲った。大部分の車は渡り切れたが、ポールの乗ったバンだけが取り残される。そして橋ごと流され、彼は激流に飲まれてしまう。


 現在では流体シミュレーションが発達し、ほとんどの作品でCG製の洪水や津波などが使用されている。しかし本作の制作時は未完成の技術だった。したがって本物の水を使用するしかないのだが、その量がリアリティに直結してしまう。そこで迫力ある洪水を描くには、毎秒15万ガロン(約568キロリットル)の水が必要になると算出し、これを溜めるための68万ガロン(約2,574キロリットル)の容積を持つ、巨大なタンクを設計した。マクラングは、リアリティある水しぶきが表現可能なギリギリのサイズとして、3.5分の1スケールのミニチュアをオーダーし、ヴァンナイス空港の滑走路にセットが組み立てられた。


 だがテストの結果、これでも不十分だと判明したため、流路に沿って毎秒5,000ガロン(約19キロリットル)のタンク8基が追加されている。さらに、要所要所にポンプやシャッターを設置して、流れをコントロールした。


 水は火山灰による濁りを表現するため、乳化剤に黒と茶色の食用染料が混ぜられ、さらに表面張力を低下させるため、泡の発生箇所に石油も注がれた。これに加えてガレキを表現するために、小さな木片や小枝、おがくずなどが大量に投げ込まれ、ラハールのニュース映像そっくりに演出された。ダムが決壊する場面は、失敗が許されないため、11台の高速度撮影カメラが用意されたが、その内の3台はフィルムが回っていなかったそうだ。


 車両が渡る鉄橋は、9mのミニチュアが作られた。人が乗って作業できるように、基本的に鉄で頑丈に作られているが、濁流で破壊されるショットでは鉛製のレプリカと交換され、宙に持ち上げるために油圧ジャッキが取り付けられた。車両のミニチュアは、ビジョン・クルー・アンリミテッド社( https://www.youtube.com/watch?v=L662CpPt3vo )(*9)などが手掛けている。本物と見紛うほど精巧に造られ、ラジコンで操作される仕組みだった。だがそのラジコンが不安定だったため、橋の中央にスリットを空けて車を引く金具を通し、下に渡したロープをウィンチで巻き上げるという、古典的手法で解決した。バンと共に流されるポールや、為す術もなく見守る調査所のスタッフたちは、グリーンバック合成で加えられた。


*9 94年に設立され、デジタル・ドメインの下請け業者となるが、『タイタニック』の作業中に20世紀フォックスが子会社化した。その後、フルサービスのVFX会社に拡大するが、02年に閉鎖された。




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